第69回高知県高等学校演劇コンクール(2019.11.09-10)

46歳にして初体験。
高知県高校演劇コンクールに審査員として参加しました。
わたくしの舞台人生の中で、高校演劇は全く通ってこなかった世界なので、トンチンカンなことばかり言ったらどうしようと必要以上に緊張しておりましたが、素晴らしい作品あり、涙涙の場面ありで、貴重な体験をさせていただきました。
お招きいただいた関係のご皆様、ありがとうございました。
ということで審査講評のメモ代わりの感想文を全世界に公開。
※作品名の手前の(創)(既)は戯曲の創作・既成という意味でございます。

1.高知南高等学校
(創)『歌ってよ、みーちゃん』
舞台装置がしっかりしていました。単焦点プロジェクターが効いていて、意外なところへの投影は驚きました。一方でひさしで映像の頭が隠れていたのはわざとかしら?
俳優、基礎的な発声ができている印象。過剰気味なメイクは伝統なのかしら?
音、映像、照明ともタイミング狂わず、しっかり全員で作品に向かい合っているように感じました。
舞台全体を使っているのは好印象。
物語のテーマ、現代らしい、ネットに残る過去というものを描いていました。
ただ、過去の事故の描き方、そこからの加害者家族になっての二次被害の描き方はリアリティが薄く感じました。
過去の姉妹の描き方、本人にしか見えない=他の人には見えていないというのを分かりやすくすればよかったのではないかと思います。
Youtuber見習いの方の、サブキャラという言葉が響きました。これもSNSが標準言語になる世の中の息苦しさの表し方よね。

2.高知学芸高等学校
(創)『うそのわたし』
学生の時ならではの、家庭と学校、周囲の友人関係が世界の全てのような閉塞感の描き方は良かったです。
学校の中の場面、目の泳ぐ感じが非常にリアル。
一方で客席を使う演出の意図が見えにくかったなー。
黒い塊の描き方、大きさや質感がバラバラなのは、それに合わせた「がまん」や「生まれる黒い心」がもっと見えたらなお良かった。→彼女に飛んでくる感じもいろんな描き方があったけど、それぞれの意図が見えたらなおのこと。
部屋の中の道具の配置、特にベッドの位置はどうか?
もう一人の自分の可愛い衣裳よかった。その後黒い衣裳になるのなら、その黒さの揃え方などもうひと頑張りできたのでは。
ふたりが感情を爆発させる場面、台詞を届けるのに工夫が必要。
舞台転換で黒い塊をはける場面、音が舞台袖でも響いた(そして良いタイミングで止まった)のはあえての演出だったのか?(講評の時に聞いて、あえてでした、すごい!)
ピンスポットライト、難しいね。けど面白いよねー。
エンディング、勉強に励むのか…学生、たいへん…。エンディングの音楽が印象的でした。

3.山田高等学校
(既)『レンタルおじいちゃん』
この戯曲を選んだ理由。もし、家族のことを描きたくてだったらなんだか嬉しいですな。
残念ながら台詞が聞こえない。声量と発声は基礎的な練習で良くなるけど、今回1年生だけの参加だったので、練習方法などが上手く継承されなかったのかなー。
舞台下手のベッドで物語が進んでいたので、上手でもなにか展開があるかと思ったら…。
エアーの扉の描写はもっと丁寧にするべきだったかな。
ナースシューズやベッドのリアリティもきっと頑張れたはず。やるならやる、やらないならやらないで魅せることもできるので、中途半端が一番もったいない。
看護婦さんと先生、キャラは立っていたけど、無闇な動き方、フラフラしている、動きに理由が欲しい。
おじいちゃん味がある、が、台詞が…。
時間の経過の表現の仕方、場所の移動の表現の仕方、暗転じゃ無くていろいろ試せたかも知れない→いろんな舞台を見ることが次のアイデアに繋がると思う。
舞台袖の話し声が客席に聞こえてくるのは致命的なことだよ。

4.高知工業高等学校
(既)『段ボールの上でプリントを書くと穴が空く』
テンポの良い会話劇でキャラクター付けも面白かったです。
登場人物2名で物語が進んでいくという作り方は、2人の関係性の変化こそが肝になると思います。
学校や家庭に馴染めない彼女と、飄々とした彼のキャラクターなら、彼女の変化を大きく見せる方が良かったし、彼はもっと突き抜けていた方が良かったかも知れないですね。
台詞が膨大で、2人とも間違いなく喋ることに比重が高かったように見えました。
この作品を選んだのならば、台詞を入れるところはしっかり頑張った上で、どういう演出をするのか?今回のクレジットは演出は部員全員で行っているとあったが、演出意図がハッキリした方が良かったと思います。
雨のシーン、照明良かったですね。

5.高知小津高等学校
(創)『追う風 時々 向かい風』
タイトルの言葉、いいですね。劇中の説明の仕方も含めて。
陸上をテーマにした物語で、オープニングの場面から、親友とライバル登場、先生の言葉、そしてエンディングと、分かりやすい映画のような構成でした。
で、それを舞台上で見せるための、教室の場面と外の場面を平台で区切る見せ方はありだと思います。照明を上手く使えばもっと場面の切り替えができたかも知れない。
夕景のホリゾント独特で良いですね。既存のルールに縛られない考え方は良いと思うが、一方で、1袖前から出ハケをするのはどうかなー。(と言ってたら後の学校でもやってた。これは高校演劇の常識なのか)
また、舞台の使い方は面白いけど、奥の平台のショートカットは、一度やってしまうとそれまで自分たちが作ったルールも壊れることになるので「ルールを守りきる」のか「ここぞ!」の場面で飛び越えたら客席に驚きを与えたかも知れません。
音がちょっと乱暴、袖から台詞を入れるシーンもあったので、SEを減らしても良かったのでは。
回想シーンの切り替えもちょっと乱暴に感じました。ためを作るところは作り、そうでない移動などで袖にはける場面はテンポ良く作ればなお良いと思います。

6.土佐女子高等学校
(創)『あやな先生のトランプ』
戯曲執筆が劇団(演劇部)となっていましたが、この本を誰が書いたのか、石巻から高知に移住した生徒の話はフィクションなのかリアルなのか?震災だけで無く、母子家庭、奨学金、将来の不安という彼女たちのリアルな問題をどこまで部員たちから出したのか、もし出してなかったとして、どこまで自分たちで社会問題の意味を飲み込めたのか。この作品をみて一番知りたかったことです。
俳優の基礎的な力は一番しっかりしていました。が、演出意図だと思いますが、会話の相手ではなく客席に向かって話すことが中心だったのは、もの凄い違和感を感じました(けど、これが高校演劇の流儀だったらごめんなさい)。
舞台美術、照明、音響の丁寧さ、どれも高いレベルでした。(が上手からのフロントかSSが下手のホワイトボードに反射してちょっとしんどかったです)
「いっそ戦争が起こったり、地震がきて、押し流されて、リセットされたらいいのに」という、雇用だったり社会や生活的に不安定な状態の登場人物が喋る台詞、これは相当なものです。場合によってはひどい中傷の的になるかもしれない。この台詞を発するための勇気を覚悟を俳優が持っていたのか、ラスト直前の地震のシーンも同様で、誰かの痛みも想像しての、あえての表現だったのか、鎚谷先生と部員の皆さんとのどんな創作現場だったのか、そこが何より知りたいです。
もしあの覚悟が必要な台詞のわずかでも、彼女たちの中から生まれたのだったら、高校演劇という教育と表現の特殊な交わりをする世界での、結構な奇跡だったかもしれない。
震災から8年。今の彼女たちが演じる意味は強く、強くあったと思います。
ラスト前のあやな先生となぎ先生のくだり、あやな先生の感情の爆発をカラダと心で震わせながら受けとめて、しっかり次の台詞につなげたなぎ先生、凄かった。鳥肌立つくらいの素晴らしいシーンでした。

7.土佐塾高等学校 (創)『涙雨』
在日韓国人である中学生のことをテーマにした作品。
今回、おそらく作品の中心を担ったのは2年生のKさんで、どこかで見た名前だなと思ったら、2012年の市民ミュージカル「音の旅人」に参加してたじゃないか!稽古の待ち時間に遊んで騒いでたおてんばのあの子が7年経ってこんなにお姉さんになって、真っ直ぐに大事なことに向き合い、作品を作るなんて!
テーマとなった社会問題。どんな思いでこの作品に向き合ったのだろう。そして他の部員達は、彼女のどんな思いを汲んで、もしくは話し合って作品にしたのだろう。
今回他の作品もそうだったのだけど、出演者が少ないことも関係してか、劇中で中傷をする顔の見えない声がSEで処理されていて、ここはそこまで説明しなくても、それを受ける側の受け答えだけでも分かったのかもしれないし、ある意味SNS時代の表現方法かもしれない。
遠いネットニュースじゃなくて身近なことであることを知ることの大切さ。僕らが向き合うのは国とかメディアの偏った情報じゃ無くて、近しい大事な人たちの顔なんやねーって、当たり前のことを訴えてくれる作品でした。
照明、ホリゾントのシルエットの転換、エンディングのフロントの片明かりが印象的。

8.中村高等学校
(創)『夜明けとともに』
児童虐待というテーマと隣に引っ越してきた友だちとの友情を描いた作品。
パネルで仕切ったシンメトリックな舞台と後方の山台の立体的な使い方が効果的でしたが、手前のパネルの高さで後方の舞台が見えにくくなったのはもったいなかったです。
あとパネルは上下の家の中で差を付けるために汚しをしたのかしら?もしそうなら、もっとハッキリした方が良いと思う。
物語は、あかねのお母さんが酔っ払っての虐待のシーン、そして朝になって酔いが覚め、自分のしたことに気付いて謝罪する場面ともリアルに描かれていて、客席にいても胸が苦しくなってしまいました。特に2回目のお母さんの責める言葉…。
ラスト、無理矢理なハッピーエンドにするより、無理矢理なバッドエンドにするよりも、今回のような形で終わらせることが逆に印象に残りました。
劇作について、なぜこのテーマを選んで、どういう風にみんなで作ったかにも興味を持ちました。(講評で聞きました。無関心こそがいけないという思いで作ったとのこと、素晴らしい!!)
幡多弁、ステキ(個人的嗜好)。

9.高知東高等学校
(創)『歌姫伝説』
最初に物語の骨子を話して始める形は新鮮です。
序盤はとてもテンポ良く、楽しんで見られました。会話の中の小ネタも効いていました。テンポ良くするためには台詞の滑舌が大事だし、照明音響も同じくらいテンポ良かったらなー。
暗転は場所や時間を移動するという簡単な手法ですが、それに頼りすぎるのは、客席の集中が途切れてしまうので、例えば暗転を使わずにどうやって表現するかなど、考えたら良かったと思います。おそらく上演時間の5%くらいは暗転状態じゃなかったのかしら。
物語は、歌唱大会にクラス代表で選抜され、人前に立つのが苦手な主人公が、先生と一緒に問題を克服して良かった良かったと。筋としては平坦になるなら、些細な心情変化や成長をもっと丁寧に描けたらよかったかなー。
お歌、上手でした。アカペラであれだけ歌えるのは凄いことです。

10.岡豊高等学校
(既)『さよなら、ケンタッキー』
既成の台本だが、いつの時代のどんな設定の舞台なんだろうか?
一番もったいなかったのは会話が成立してないこと。
相手の台詞や行動を受けて返せていない。
台詞を届けるのにどういう行動が必要かをもっと考えるべきだった。
突拍子もない物語にリアリティを持たせたいのか、逆なのか。
バクテリアのプラケが落ちたのは致命的では無かったのか。
非常に壮大なエンディング、客席で意味が伝わった人はいるのかしら…。
一方で終演後のみんなのやり切った感じの笑顔が印象的。ある意味これも高校演劇の姿なのかも知れない。

11.高知西高等学校
(創)『雨音』
女子高校生4名の恋と友情の物語だけど、同性愛に対する捉え方をもう少し多面的に描けたらよかった。
友だちグループのヒエラルキーや、そこから弾かれることの怖さというのはあるかも知れない。
物語のプロットとそこに落とし込むエピソード、時間のバランスなど、もうちょっと作り込める余地はあったように感じました。個別のシーンを作るなど、4人の関係性を丁寧に浮かびあがらせたら。
事故エンディングの早急さ、びっくりしました。
この作品が「偏見を受けたから事故で恋人を失った」と言いたいために書かれたのなら、ちょっと残念。事件や事故が無くても、関係を丁寧に描くだけでも、演劇は成立すると思うよ。
教室と自宅を同じエリアにしているのは思い切りがよかったです。俳優がしっかり演じれば、そこはどんな空間にでもなれる!

12.高知丸の内高等学校
(創)『ヒーロー』
保育園の頃いじめられていた男の子への復讐心の一方で、彼に惹かれる女の子。
殺意を抱くというのはよっぽどだと思うけど、冒頭から仲良い感じだったので、違和感を覚えました。
せっかくなら、ガチガチになっていた心が、少しずつ変化していくのを、モノローグじゃなく、演技で魅せてくれたら良かったです。
仲良くなった後の、突然の交通事故。脈絡のない交通事故は高校演劇のスタンダードなのか?
男の子、手がフラフラが気になる。
黒子に驚き、見せながらの転換、面白い。真面目にありえないことをダイナミックに魅せることが演劇の醍醐味だと思います。
あと、一作前の西高にも感じたのですが、演劇で恋を真っ直ぐに描くのって、ホントに大変ね。

■総評
全体を通じて、ほとんどの作品の中に、将来についての希望や不安が見え隠れしていました。
まさに今の彼ら彼女らでしか描けない作品だったと思います。
みなさん、ありがとうございました!!