高知演劇ネットワーク演会「雨かしら」、南河内万歳一座「お馬鹿屋敷」(2013.02)

ついに一段落。正月休み以来の完全休暇日。
メールであれこれ仕事はしてるけど、やはり、この喪失感は厳しい。
万歳の奈良さんも「終わった後の寂しい病がうつった」とメールが来て、なんだか申し訳ない。けどけど、またすぐに再会できるでしょう。

で、落ち着いたので、「雨かしら」「お馬鹿屋敷」両公演の感想です。
「雨かしら」はこのプロジェクトのスタート時には「どうなることやら」という、大きな不安がありました。小さな所帯とは言え、それぞれの劇団のプライドを持って参加してくれている役者やスタッフの皆さん。基礎訓練や、稽古の進め方、解釈など、それぞれ勝手が違う中で模索していたように思います。それがやっとうまくひとつの有機体として機能を始めたのが、内藤さんがやってくる10日ほど前だったように思います。

そこからの10日間、そして内藤さんが来てからの10日間は、まるで夢のようでした。こんなに夢中で作品の中に入り込めることは、文化事業の制作を20数年やっている自分でも、初めての経験でした。

あまりに入り込みすぎて、客観的な判断や全体的な仕事を岡村さんはじめとする演会の皆さんにフォローいただいたことは劇場の制作的には情けないことではあります。けど、それ以上に北九州のリージョナルなどを経て、お互いの信頼関係があったこその今回の体制になったと思います(言い訳やな)。

作品のテーマは「コミュニケーションとディスコミュニケーション」。そしてどんな厳しい状況にもかかわらず、芝居を続けていこうと苦しみもがく劇団、そして家族という構図です。
この公演は客観的な感想はうまく出せないのですが、エンディングの雨の軒下、結局同じ場所に立ち戻った全員が、雨がザーザー降るこの道を進んでいくしかない、という決意のシーン。最初に戯曲を読んだときにはそう感じなかったこのエンディングが、内藤さんの指導で、まるで千本ノックのような繰り返し稽古をすることで、お客さんの入った本番では何とも言えない心を動かす場面となりました。実際、公演終了後のロビーには涙を浮かべるお客さんもいらっしゃいました。
関わってくれた皆さん、そしてご来場の皆様、本当にありがとうございました。

そしてその翌週に上演された「お馬鹿屋敷」。実は今回のプレスリリース用のあらすじは、縁あって自分が書いてます。

体は疲れ、眠りにつきたいが、顔の見えない界隈の居心地悪さに、どうしても眠れない男。眠ってしまうと、思い出したくもないことを思い出し、 考えたくもないこと考えるために、いっそ眠らず起き続けようとする女。出張の連続で、うたた寝からふと目を覚ますと、今自分はどこにいるのか、どこに向かっているのか分からなくなってしまう会社員。そんな面々がやがて駅前旅館『大和屋別館』 にたどり着く。そこで待ち受けているものは……?

設定はこの通りで、この3人を軸に話は進みますが、伝えようとしているのは徹頭徹尾「なにかやらかしたヤツも知らん顔で近所に住んでる、この居心地の悪さ。自分たちが生きてる世界そのものがお馬鹿屋敷じゃないの?」ということかと思いました。ラジオのプロモーションで内藤さんが「この数年の政権交代や戻ったりも、端から見たらそうとう馬鹿なんじゃないの?」なんて口を滑らしていたのも納得です。
ただこの物語は、ラストに向かうことでどんどん解釈が人によって変わってくると思います。
この物語は誰の夢の中なのか?最後まで布団からでなかったあの登場人物は誰なのか?
そして何度も何度も劇中で歌われた歌詞が心に響きます。

「ねんねこよ おころりよ 生まれるよ 蠢くよ うるさいよ 疼くよ」

万歳の高知公演史上、最大の動員を記録した今回。ひょっとするともう少し分かりやすい作品の方が、次回に繋がったかもしれません。その一方で、なにか心にひっかかった言葉や歌、絵が忘れられなくて、万歳の次回公演に来てくれる方もいるかもしれません。

どんな感想であれ、来てくれた方には次回公演をお奨めします。
万歳の次回公演はもう少し先ですが、その前にまた違うプログラムで、内藤さんの世界を楽しめると思います。詳細発表までもうちょっと待って!!


かるぽーと開館10周年記念事業として、演劇合同公演「雨かしら」を開催しました。
この公演は、高知で活動をする劇団により組織された「高知演劇ネットワーク演会」との協働制作で行われ、舞台制作・出演は演会の選抜メンバーが集結。
作・演出は読売演劇大賞・優秀演出家賞や文化庁芸術祭優秀賞を受賞するなど関西演劇界の一線で活躍する一方で、多くのワークショップや高校演劇の指導などで高知と縁深い、南河内万歳一座座長・内藤裕敬氏を迎えました。

作品のテーマは「コミュニケーションとディスコミュニケーション」。
どんな厳しい状況にもかかわらず、芝居を続けていこうと苦しみもがく劇団、そしてバラバラになりながらも関係を繋ごうと努力する家族という構図を劇中劇の形で表現しました。

公演に向けた稽古は10月末より始まりましたが、基礎訓練や稽古の進め方、戯曲の解釈など、それぞれが普段自分たちの劇団で行う稽古とは勝手が違う中で試行錯誤を繰り返し、少しずつお互いの関係性を築きあげ、「良い作品を創ろう」という目標の下、本番に向かって進むという、劇中劇の内容を地で行く制作過程となりました。
公演当日は3公演とも満員のお客様にお越しいただき、多くの方に高い評価をいただきました。

本公演は、外部より演出家を招くことでの個々の表現者としてのレベルアップと、劇団や世代間の垣根を越え、作品を創り上げた制作面においても非常に重要な意味を持ったように感じます。
本公演が今後、地域の表現者と繋がり、作品を創り上げていくという事業団の活動の礎となるよう頑張っていきたいと思います。

【出演】
丸山良太(シャカ力)/井上杏里(TRY-ANGLE)/前田澄子(TRY-ANGLE)/行正忠義(シャカ力)/ 領木隆行(TRY-ANGLE)/大塚美奈(劇団.どっと)/吉岡千夏(文化猿人)/ 阿井瑞希(劇団シアターホリック)/松島寛和(劇団シアターホリック)

【スタッフ】
作・演出:内藤裕敬/音楽:藤田辰也
山田紫織(劇団シアターホリック)/近藤穂香(劇団シアターホリック)/ 大町愛華(劇団シアターホリック)/中平花(劇団シアターホリック)/吉良佳晃(劇団プラセボ)/ 西香菜子(文化猿人)/岡村実記(シャカ力)/西本一弥(シャカ力)/渡辺枝里(屋根裏舞台)/ 日野早人(屋根裏舞台)/藤岡武洋(劇団MAC)/山下斎/吉田剛治(高知市文化振興事業団)
音響・照明協力:四国舞台テレビ照明


かるぽーとでは3年ぶり5度目となる、南河内万歳一座の公演を行いました。
今回の作品は「お馬鹿屋敷」。2006年に初演された作品を改訂し、大阪、北九州、東京と上演され、高知で大千秋楽を迎えました。

体は疲れ、眠りにつきたいが、顔の見えない界隈の居心地悪さに、どうしても眠れない男。眠ってしまうと、思い出したくもないことを思い出し、考えたくもないこと考えるために、いっそ眠らず起き続けようとする女。出張の連続で、うたた寝からふと目を覚ますと、今自分はどこにいるのか、どこに向かっているのか分からなくなってしまう会社員。そんな3人を軸に話は進みます。

伝えようとしているのは徹頭徹尾「なにかやらかしたヤツも知らん顔で近所に住んでる、この居心地の悪さ。自分たちが生きてる世界そのものがお馬鹿屋敷で、そんな世界に住んでいる自分たちも少しずつ馬鹿になっているんじゃないの?」ということかと思いました。
そしてこの物語は、ラストに向かうことで解釈が人によって大きく変わってくると思います。
この物語はいったい誰の夢の中なのか?最後まで布団からでなかったあの登場人物は誰なのか? そして何度も何度も劇中で歌われた歌詞が心に響きます。
「ねんねこよ おころりよ 生まれるよ 蠢くよ うるさいよ 疼くよ」

万歳の高知公演史上最大の動員を記録した今回は、本公演に先立ち高知演劇ネットワーク演会の選抜メンバーが、劇団座長・内藤裕敬さんの作・演出作品「雨かしら」を上演するという、2週連続の企画となりました。
本公演の開催にあたり、高知演劇ネットワーク演会のメンバーが仕込みから本番、バラシ、打ち上げに至るまで大挙して参加し、演劇人同士の深い交流を持てたことも大きな成果となりました。