「花咲く港」細川貴司インタビュー

2021年「わが町」より

高知市出身。大学進学後、日本を代表する演出家・串田和美さんとの出会いから演劇をはじめ、現在も第一線で活躍する俳優・細川貴司さん。
高知には2020年に凱旋公演として一人芝居「セツアンの善人」を、2021年には公募により集まった高知の演劇人と「わが町」を上演し、そして今回、香南市夜須公民館マリンホールにて市民参加演劇公演「花咲く港」を上演します。
そんな細川さんに、高知での創作と今回の作品についてお話を伺いました。

−−イキナリ脱線気味な質問なんですけど、細川さんめちゃくちゃ弁が立つというか、お口が達者というか(笑)、トーク力が凄いじゃないですか。これってどうやって培ったんですか?

物心つく前からとにかくおしゃべりだったみたいで、朝、部屋から出てくる前に独り言が聞こえてくる子供だったそうです。両親にはのびのびと育てられて、本はお小遣いとは別に買ってもらえました。実家が市民図書館の近くだったので、本はたくさん読んでいましたね。
ただ、のびのび育てられすぎたせいで(笑)今思うとかなり多動で、教室で落ち着いて座っていられなくって。ずーっと喋っているから、小学校の時は「うるさい!」って先生にテープでグルグル巻きにされたりしましたね(笑)。

−−世が世なら…大問題ですね(笑)

みんなの邪魔になるから仕方なかったんでしょうけど。
けどすごくお世話になった先生もいて。小学校3年生の時のベテランの先生と、6年生の時の先生。
先生なのに「教師の言うことを信じるな」なんて言う人で(笑)、そんな先生方に出会って割と一般的な小学生になって、その後中学のバレー部の顧問の先生に「礼儀」と「スポーツマンとはなにか」ってのを叩き込まれましたね。

−−串田さんも含めて、いろんなキーマンとの出会いが今の細川さんを作り上げたと。すごく腑に落ちました(笑)。では本題になりますが、細川さんは大学から演劇を始めたので高知の演劇とは関わりがない中で、2020年から高知でのクリエイションが始まりました。外から見た高知の印象はいかがでしょうか?

とにかく、素直で貪欲で純粋。これに尽きると思いますね。
一番嬉しいのが稽古に楽しそうに来てくれること。そして僕が言ったことをなんとか取り入れようと挑戦してくれる、みなさん「恥をかく」ことを恐れていないんです。
普通人前で出来なかった事を指摘されると恥ずかしいから硬くなっちゃうんですけど、僕が「こんなになってましたよ」って言ったら、皆がどっと笑って、本人も笑ってるような(笑)、これは良い稽古場だぞって。

−−ちなみに今回のように、一般の方を演出する機会ってこれまであったんですか?

演出ではないですけど、信州まつもと大歌舞伎の市民キャストの指導に1回目から携わらせていただきました。
最初、100人の市民キャストが舞台上に出るシーンを担当したんです。僕たちの一番の仕事は舞台上の安全をつかさどること。そうすると必然的に皆さんの特性を見極める事が必要になるんです。「この人は周りが見えなくなりやすい人だな。」とか「この人は体力あるな」とか。それを知る為にゲームや、課題を考えて、ある程度特性が見えてきたら舞台上で表現すべき最終目標に向かって、エッセンスを分解した稽古をしてシーンを組み立てていく、そんな創り方をしていました。
参加者の中には人生の先輩や、会社では重要なポストについてらっしゃる方も沢山いらっしゃいます。でも、そういう方々にも「これは皆さんの安全を守った上で、いい芝居を作るためなので許してください」って最初にお断りして、三十そこそこの若造が先輩に向かって失礼な口をきいたり怒ったりしなければならないんです。その経験が今高知でやっていることに繋がっていますね。

−−今回「花咲く港」という作品を選んだ理由を教えてください。

「歴史は繰り返すのではなく韻を踏む」というならば、この時代に演劇を創る自分が取り組みたいモチーフの一つに「20世紀前半の戯曲」があるんです。演劇って映画とか写真と違って「絵」はないけど、当時の会話がそのまま残っているじゃないですか。ちょっと開け方が難しい缶詰みたいなものだと思うんです。会話を立ち上げると、同時にその時代の「空気」が立ち上がる。その「空気」は今を生きる私たちにとって近いものは何か?このまま行くと世界大戦になっていくような時代に書かれた当時の「空気」を現代と比較する事、それは現代の演劇の一つの役割ではないかと思うんです。それが一つ目の理由です。
もうひとつは「花咲く港」はもともとやってみたい作品ではあったのですが、方言の壁もあったりして、いつも僕が携わっている現場だと魅力的に立ち上げるのは難しいなと思っていたんです。でも今回夜須公民館さんからお話をいただいた時に、高知で、夜須という港町でやれば、街の風景とか空気とかも含めて成立するんじゃないかなって思ったんです。

−−出演募集の結果、最終27人の出演者となりました。その中には高知で演劇をやっている人もいる一方で、ご年配の方や未経験の方もいたり、いろんな立場の人が集まりました。

高知では最初にひとりで始めて(2020年「セツアンの善人」)、ワークショップをやらせていただいて、翌年「わが町」で16名の方に参加いただいて、今回さらに参加者が増えたことは、とてもありがたいし、嬉しいし光栄です。演劇ってまだ届いてないだけで「やりたい」って人は沢山いるんだなって。
参加者の皆さんには、カーテンコールの達成感だけでなく、舞台上のやり取りそのものの楽しさや、芝居を作り上げていく面白さを、例えば演技を通してお互いを信頼し合うことの喜びを伝えたいなって思っています。

−−高知の演劇人についてはいかがでしょうか?

高知の特徴なのか、自分の劇団内で閉じこもらず、外部の演出家の作品やワークショップに積極的に参加されている環境が良いんじゃないかと思います。いろんな考えに触れることで、柔軟な姿勢を手に入れている。そういう土壌を高知の演劇人の皆さんが作っていて、その積み重ねの上で僕はやらせていただいてるだけだと思います。

−−今回、まつもと市民芸術館のレジデントカンパニー・TCアルプで細川さんと同じ立ち上げメンバーの武居卓さんも参加されています。

今回のお話は、素朴な島の人たちの営みの中に、喜劇的役割の二人組がやってくる構造になっています。
高知の俳優さんたちによる舞台上の生き生きとしたやりとりに翻弄されながらも、客席と意識を行き来させ、物語を進行できる技術と原動力のある俳優がいたらいいなって思いで武居を呼びました。

−−音楽には高知在住のミュージシャン、ハナカタマサキさんを起用しました。

ハナカタさんは最初に会った時、非常に素朴で朴訥にしゃべる方だなと思ったんですが、実際に歌うところを見たら全く違って。「これは舞台上でも見たい!」と作曲に加え、出演もお願いしました。
作曲は本当に誠実に、人柄通りに対応していただいてて、劇中の音楽についてのやり取りがとても濃密で楽しいですね。

−−最後に、お客さまに向けてお願いします。

お芝居って「芝生の上に居る」って書いていて、もともと芝生の上で、リラックスして見てたものだと思うんです。さらに今回のお話は菊田一夫さんという昭和の名劇作家が、昭和の喜劇俳優・古川ロッパに向けて当て書きをした作品で、当時浅草の劇場にロッパを見に来た観客が、ゲラゲラ笑ってみていた作品だと思うんですね。
なので、「演劇は堅苦しいし、難しいものだ」みたいな概念を取り払っていただけるような、演劇の自由さと楽しさをお届けする作品にしたいと思っています。
あと、上演前でも上演後でも、会場の周辺を散歩して、海や夜須の港町の空気を感じてもらって「この街で生まれた作品だな」って思ってもらえるような、街も含めて楽しんでもらえるような作品にしたいと思います。どうぞ、劇場に足を運んでください。

−−ありがとうございました!市民参加演劇公演「花咲く港」は2023年2月25日(土)26日(日)と、香南市夜須公民館マリンホールにて上演します。沢山のご来場、お待ちしています!

市民参加演劇公演「花咲く港」(2023.02.25-26)