川島宏知 ひとり芝居「天の魚」(2019.11.22)

昨日は蛸蔵にて、ひとり芝居「天の魚」を観てきましたよ。例によって感想文。
石牟礼道子さんの小説「苦海浄土」をベースに、砂田明さんという演劇人が作った作品で、砂田さんが亡くなった後に、彼のカンパニーに長く所属していた高知県宿毛市在住の俳優、川島宏知さんが引き継いで全国で上演している、水俣病を題材にした演劇作品です。

物語はおそらく、取材に訪れた原作者の石牟礼さんを前に、水俣病に苦しめられる江津野家の祖父が、彼女に向かって語りかけるというスタイルで進行します。
一人で演じる川島さんは73歳という年齢を感じさせない声の艶と張りが印象的で、エンディングの晴れ晴れしく踊る姿は美しく、力強いものでした。

過去の事件のように感じてしまう水俣病は、当初は伝染病という誤解から患者認定に名乗ることをためらった人もおり、結果今でも多くの人が苦しめられているという事実。また、国や企業が補償の幕引きを謀ろうとしているということを作品を通じて伝えようとすることはしっかりと受け止められる一方で「水俣病についてなにも知識のない方に、この作品を見せたらどう感じるだろうかな…」とも思ってしまいました。

上に書いたエンディングの踊りや、必死に生きるお孫さんの場面が美しく胸に響いたのと同じくらい、いや、それ以上に、犬や猫が狂ってしまう描写や、当時の貧しい暮らしの果てに女性が売られていく場面など、若かりし頃に見た、思想や誰かの強い思いを客席に押しつけるような演劇公演のしんどさと同様のものを感じた次第です。

個人的には伝え方については…うーん…。
けど、この作品も間違いなく演劇のひとつの形。
ひとつのことを続けていく大切さ。
演劇は、深い…。