ボラ☆ボラ「ただ、吸って吐く」(2020.03.23)
先日は南河内万歳一座稽古場にて、ボラ☆ボラ「ただ、吸って吐く」を観てきましたよ。例によって感想文。
何度も行ってる万歳の稽古場ですが、ここで公演を観るのははじめてでした。客席ひな壇を組んで、暗転もバッチシきいて、劇場らしくなってたのには驚いたなー。
この「劇場らしさ」というのは見栄えのことだけでなく、誘導だったり、受付だったり、感染症対策もそう、「いまの状況でお客さまを迎える」ことをしっかり考えているボラボラさんの姿勢が、稽古場を劇場に変えたんだと思います。
さて作品につきまして。
ボラボラは2017年に高知でも上演いただいたのですが、この時はあゆさんが戯曲を書き、前田さんが演出をされましたが、今回は前田さんが戯曲執筆も演出もされてまして、わたくし初の前田作品鑑賞となりました。
物語の舞台はとある零細パチンコ店。
これは埼玉県に実在しているチャレンジャー幸手店というお店をモデルにしていまして、こちらはパチンコ好きの方がパチンコを愛する余りに「自分のパチンコ店を作りたい」と、潰れそうなパチンコ店を買い取り、経営危機に見舞われながらも革新的なyoutubeの動画配信を行い、現在は全国のパチンコファンからの支持を集めているお店だそうです。
物語は、売り上げ不足・スタッフ不足で窮地に陥ったお店に謎の女性(髙道屋沙姫さん)が履歴書を持って訪れ、スタッフとなった彼女の頑張りとスタッフのチームワークでお店が少しずつ上向きになり、さらに動画配信というアイデアで勝負するというものでした。
冒頭のお店を辞めるスタッフ(ゴリさん)とオーナー(サム)のやり取りは「?」ではじまって「なるほど!」と、店の現状が一気に伝わる感じでしたが、そこからの前半の展開、若干テンポが…。これは実在のお店があることで、丁寧に描かなきゃいけないって意識が働いたのかなー。
もうひとつ、オーナーの人物像がちょっと見えにくかったかも知れない。こちらはモデルとなった方のパチンコ愛溢れるキャラクターが強烈すぎて、逆に舞台上のオーナーの個性が描きにくいと言うか、いい人すぎてしまったように感じました。
お店の逆転劇という物語の主軸がある一方で、大いに心惹かれたのが、お店のオープン当初からいるやり手スタッフ(あゆさん)と、髙道屋さん、そしてサムの、信頼できる相手に自分の心をちょっと開くような、でもそんなにおおごと過ぎない、自分語りの場面でした。
タイトルにもなった「ただ、吸って吐く」は、急に息の仕方が分からなくなって、パニックになることがある。そんなときは思い切って全部の息を吐き出したら、吸えるようになったなんて話で、同じような体験をする人はそう多くはない個人的な出来事が、なんだか響いちゃうような、リアル。
ほかにも「やりたいこと」「好きなこと」「頑張る」なんて言葉をちょっと解釈を変えたら、気張りすぎずにできるんじゃない?大丈夫、あなたはそのままでいいんだよって、互いに声を掛け合えるような関係の優しさ。
おそらく、劇作家としての前田さんは、ここの部分を大切にしてるんやろうなーって思ったことでした。
はじめましての髙道屋さん、凜とした目が印象的でした。
同じく大倉さん、一言多い物語のキャラクターを見事に演じていました。
サム、もっと遊べるはず。ふぁいと。
あゆさん、後半の爆発と優しさ、あゆさんそのものじゃった。
ゴリさん、ゴリさんがいるだけで劇空間になる底力、十分堪能しました。
前田さん、もちょっと舞台上でも見たかったなー。その風貌も活かしてほしかった…。
ボラボラの皆さんは、今週末、チャレンジャー幸手店のある埼玉にて大千秋楽を迎えます。
この状況の中、埼玉の演劇ファン、パチンコファンに、この幸せが届きますように。
ありがとうございました!!