「いびしない愛」竹田モモコインタビュー
土佐清水出身の劇作家・俳優の竹田モモコさんが主宰する劇団「ばぶれるりぐる」。2018年の旗揚げ直後から関西演劇シーンで大きな話題を集め、2020年には日本劇作家協会が主催する新人劇作家の登龍門・新人戯曲賞を受賞しました。
そして今回、新人戯曲賞を獲得した作品「いびしない愛」をひっさげ、劇団初の高知公演、土佐清水公演に臨みます。そんな竹田さんの演劇にかける思いと、高知・土佐清水公演への意気込みをお伺いしました。
−−竹田さんの演劇活動についてお伺いしますが、高知では演劇活動はされてない?
はい、そうなんです。高校を卒業して、大阪に行ってからですね。
−−演劇活動をはじめるきっかけってどういうものだったんですか?
20歳くらいの時に「大人計画」とか「ナイロン100℃」を観る機会があって。その時はあんまり作品の面白さは分からなくて、不条理劇の見方とかも分からなかったんですけど、それでも会場のエネルギーっていうか、お客さんも立ち見でギュウギュウになっていて、みんなが舞台に集中して笑っているような光景を見て「めっちゃ格好いい世界やなー」って思って。
でもそこから、演劇の世界に踏み込む勇気が無かったのと、まず入り口が分からなくて…。
で、26歳の時に「売込隊ビーム」(大阪を拠点とする劇団)が劇団員を募集しているのを見て「今しかない!」って感じで飛び込んで。そこからですね。
−−ちなみにこれまでにご自分で戯曲を書かれたりは?
旗揚げ以前はないですね。
小学生の時に、3ページくらいのマンガを描いたんですけど。それを親戚のお姉ちゃんに「何か分からん」って言われて、傷ついて(笑)。もう人前では表現しないって(笑)。
−−(笑)。でも劇団活動の中でいろんなことを学ばれて、そこで自身の作品を発表したいという思いが「ばぶれるりぐる」旗揚げに繋がるんですね。
そうですね。役者だけではどうしようもできないこともあって。「もっとこうしたら面白くなるのに」みたいなストレスもあったんで、それやったらイチから自分で作って、一緒にやりたい役者さんやスタッフさんを集めてやろうって思いました。
−−「ばぶれるりぐる」の旗揚げは2018年。旗揚げ直後から高知にも「幡多弁が飛び交うすごい劇団がある」って噂が届いて、旗揚げ作品の「ほたえる人ら」はDVDで、次作「へちむくかぞく」は劇場で観させてもらいました。作品は幡多弁もそうですし、舞台も土佐清水にされていますね。
場所については、地名を確定してしまうと身動きできなくなる感じがあるんで「幡多郡のどこか」ぐらいのぼやかし方はしてるんです。以前15分くらいのコントを書いた時は「海の無い幡多郡」を舞台にしたんですよ。三原村が海が無いですよね。海が無い場所で、そこに出てくるサーファーの話を書いたり(笑)。
−−最初の「ほたえる人ら」は場所だったり、地域の状況だったりをいろんな視点で見せるような作品で、次作の「へちむくかぞく」はもっと自分の内側に向かう作品でした。今回の「いびしない愛」はどういうお話なんでしょうか?
わりとミニマムというか、宗田節工場の中の事務所が舞台で。
「ほたえる人ら」は一番最初に書いた作品だったので、社会性とか、格好つけて手を広げて書いちゃったんですけど、結局書きたいことって、もうちょっと内のことじゃなかったんだろうかって思って…なのでどちらかというと「へちむくかぞく」よりの作品かなって。
−−「いびしない」って幡多弁は、土佐弁ネイティブの僕らでもあんまり耳なじみがないです。
「いびしない」っていうのは、簡単に言うと「汚れている」とか「散らかっている」という意味なんですが、さらにウエッティな感じの汚れ方というか…例えば流しの中に汚れたお茶碗やお皿がいっぱい溜まってて、ご飯がこびりついてて。とても人に見せられるモノじゃ無いくらいの汚さ。
−−人に見せたくない汚さ…の愛(笑)。
そんな愛(笑)。
−−男女間の愛という意味ですか?
男女間の愛もあるかも知れないですけど、主に物語の中で描いているのは姉妹の愛だったり、強い自己愛だったり…ちょっと歪んでいるというか、あんまり人に見せんほうがいいだろうなっていう感じの愛かな。
−−本公演の演出はずっとチャーハン・ラモーンさんにお願いされていますね。
毎回チャーハンさんにお願いして、毎回最初は断られて(笑)。
−−それでもチャーハンさんの演出が竹田さんの中ではしっくり来ると。
チャーハンさんからは「もう自分で演出しちゃいなよ」って言われるんですが、でも自分の作品は自分が好きなので、あんまり外れたことはしない…戯曲通りの演出をしてしまいそうで、それって総合芸術としては弱いかなって思うんですよ。
いろいろをかき混ぜたり、解釈を変えたりした方が面白いなって思うし、それを観たいなって思うんで。
−−ちなみに稽古中にチャーハンさんが「台本のここはどういうことだろう?」って竹田さんに聞いたりしますか?
それはもちろんあります。
自分としては山場として書いたつもりの台詞でも、チャーハンさんはそこをサラッと流して、「こんなところを山場にするんやー」って演出の付け方をされますね。
−−竹田さん的にはそれは新しい発見の一方で「もっとここを盛り上げてよ」なんてならないんですか?
なりますなります。もちろんストレスになったりするんですけど(笑)、でもチャーハンさんの美的感覚を信じてるんで「確かにその方がオシャレやな」とか「確かに人ってそんなにドラマチックに人と対峙しないね」とか、ちょっとすかしたり抜きがあるなとか。
真っ正面にならないですよね、日常で大の大人が。それを上手いことドライに表現してくれるのがいいかなって。
−−続いて共演の泥谷さんについてですが、泥谷さんも毎回「ばぶれるりぐる」に参加されています。
泥谷さんのご両親が土佐清水出身で、泥谷さんは…なんかいるだけで、清水臭がするので(笑)。
なんというか、清水の空気感をぱっと出してくれるんで。言い方は悪いですけどめちゃくちゃ重宝してます(笑)。ほんまありがたいです。
−−高知公演、土佐清水公演が実現するきっかけとなった新人戯曲賞ですが、旗揚げからすごいテンポでのこの受賞はどう感じられました?
「ばぶれるりぐる」が評価されて、どんどん先に転がっていっちゃう感じが若干怖いなって思ったのと…でも、それでも絶対売れた方が、一緒に作品を作ってくれる役者さんやスタッフさんにご恩返しができるので、怖いながらも転がってみようって思ってます。
−−高知・土佐清水の、はじめましてのお客さんにどんなイメージで向かおうと思いますか?
怖くて考えてないんですけど(笑)、いつも通り「ばぶれるりぐる」で作っているもの、稽古場で面白いって感じたものを、いつも通りに持ってこようと。あんまし地元を意識しないようにはしてます。
−−ちなみに県民文化ホールにはお客さんで来られたりしたことあります?
ないんです。
−−土佐清水文化会館は?
文化会館はピアノの発表会で3回くらいと、中学校の弁論大会でも舞台に立ちました(笑)。
しかし、まさかあそこで自分が役者として芝居やるなんて…人生分からないもんですね(笑)。
−−最後に、高知と土佐清水のお客さまに一言お願いします。
幡多弁の本場の場所でお芝居をやるのは正直とっても怖いんですけど、観ていただいた方に「毎日づつないけんだ、明日も頑張ってみるか」って思ってもらえるような作品を持っていきます。皆さん良ければ観に来てください。
−−ありがとうございました。ばぶれるりぐる「いびしない愛」は、10月7日(木)高知県民文化ホール、10月10日(日)に土佐清水文化会館にて上演します。沢山のご来場をお待ちしています!