第71回高知県高等学校演劇コンクール(2021.11.20-21)
人生2度目の高校演劇審査。
ちょうど開催日(2021年11月20日、21日)前後は強烈な忙しさだったため、講評をまとめられてなかったのですが、形に残すことは大切と、大幅に遅れての感想文です。
1.山田高校「赤ずきん B面」(既成)
出演者全員に見せ場を作った既成台本でした。
驚きはミュージカル仕立て!もしや部員さんで音楽に長けている方が台詞に合わせて曲を起こしたのかな?とも思ったのですが、戯曲の作者の方が劇中歌もオケも公開しているそうです。とはいえ振り付けは皆で考えたのかな?何にせよ意欲的な挑戦だと思います。
物語はみんな知っている「赤ずきん」をベースに、赤ずきんちゃんのホントのお名前を教えてもらうために、おばあちゃん家を訪ねるというもので、原作の世界観に「寿限無」や現代の小ネタを存分に加えて遊び倒す内容でした(ただし元ネタが相当古いものもあり、高校生的には意味が分かっていたのかしらってものも結構ありました)。
出演者全員に見せ場を作る構成で、みんなが演じる楽しさを知ってもらうことが大事だったと思います。その上で、台詞のかけ方、受け方、舞台での立ち方など、演劇の基本の大事さを実際に舞台に立つことで感じてもらえたら。それを自身の次の活動や後輩に伝えて行ってくれたらなって思いました。
あとは細々したところで、回想シーンのストップモーション、面白いからこそもっとダイナミックにした方が良かったかな。
また全員集合した終盤の台詞の間の詰め方と、手紙の見せ方は、演出の腕の見せどころだったと思うので、もうひと頑張りして欲しかったかなー。
2.高知西高校「夜渡る鳥は眠らない」(創作)
印象的なタイトルのオリジナル作品。
夢の世界と現実の世界を軸に、出演者の関係性や過去について、観客側の想像をかき立てる創り方でした。
この謎の散りばめ方が秀逸だったのですが、物語ラストに一気に台詞で説明してしまったのはかなりもったいなかった。
作者としては全てを分かって欲しいと思うけど、もっと観客の想像力を信じてもよいのではないかなって思います。
物語は夜になると目覚め、朝になると眠る不思議な病気の主人公チコの過去の思い出と、亡くなった家族や友人が描かれます。
「普通でいることってそんなに大切か?」「生きていることは苦しい、けど素晴らしい」という劇中の台詞、現役の高校生が書いているこそがステキだなって思います。
物語のスイとチコの別れのシーン、ふたりの距離感と反応、素晴らしかったです。またあえて音楽を使わない演出も良かった。
あとは見せ方ですが、夢の中と現実、過去と現在の描き分け、何度も行き交うのならば、どうしても単調になるので、もっとシンプルな見せ方もあったかもしれません。
舞台としては、たまたま搬入扉が開いていたのが原因だったのか、オープニングに袖幕と引割幕が膨らんでいた場面が印象的でした。
あと前回も感じた高校演劇は交通事故とセットなのか問題、人が急に亡くなるのはこれ以外にないんでしょうかね?盛大な事故のSEは行き過ぎててギャグのようにも取れてしまったのはもったいなかった。
3.岡豊高校「火のない所に煙は立たない」(創作)
文化祭の出し物を検討していく女子生徒4人が、出し物のお化け屋敷の話から少しずつ身近な怖い話になって…という、しっかり創られた会話劇でした。
舞台はシンプルな構成ながら、ミザンス(出演者の並び)もきれいで、照明でエリアを絞った見せ方、時間の経過の表現の仕方もしっかりしていました。
場面転換がなく、動きも少ない中で、どう物語を描くのか。出演者にウエイトがかかる中で、皆さんそれぞれの役をしっかり演じていたと思います。しかしながら、朴訥とした話し方だからこそ怖さが際立つ一方で、若干声量が気になったりもしました。実際の距離感も大事だけど、客席に台詞を届ける意識も必要かなって思います。
また、聞く側の怖がり方の段階も上手く踏んで行けたら良かったかなー。怖いって感情はなかなかバリエーションが出しにくいけど、それを考えながら実践するのは大切だったと思います。
エンディングは「ん?どういうことだ?」ってなりました。けど、終演後に「あれはどういう意味なんだろうな?」って考える余白があることの方が豊かだと思った次第です。
4.土佐高校「ブランコ」(創作)
それぞれに居場所がない中で、公園で出会った茜と凜玖の物語。
冒頭の舞台袖の声に「舞台に出たら良いのになー」って思ったり、凜玖と茜のお母さんを同じ方が演じている意図が見えないなーって思ってたら、部員が少ないための苦肉の策だったそうで。それはそれで大変だし、それでも上演しようと頑張った部員の皆さんには拍手を贈りたいです。
高校生の勉強への向き合い方、家族の向き合い方、将来のこと、いずれも等身大の視点で描かれているからこそ「おや?そうはならんやろ?」ってところが逆にリアルにも感じられました。
優等生の茜がなぜいじめを受けているのか、また家庭に居場所を感じられないのかがよく分からずにいたのですが、物語後半の、おそらくは作者も狙ってないであろう茜の立ち振る舞い(急に怒る、そんなに吐露しない、人との距離がおかしい)に「なるほど」って思ったりするから演劇は面白い。
そして将来の不安は解決することは無いわけで、寄り添いきれない二人の関係性や、わかり合えないことを描いたのは、高校生のリアルなんだろうなって思いましたし、観劇後もざわざわした何かが胸に残ったことでした。
星球の使い方(ゆっくりFI、1球だけ光量が強い)と、劇中で話していた星の話のリンクの仕方、良かったなー。
5.高知学芸高校「幸福プロップス」(創作)
「幸福プロップス」という願いが叶うアイテムをおばあさんからもらった、メグルとユイの兄妹(余談ですがおばあさんの着物姿、かっちょよかったです)。このアイテムは「人を助けた分だけ自分も幸せになれる」というもので、身近にいる困っている人=引きこもりのマイと、その原因を作った友人ナツメの関係を修復するパート、そして冒頭から兄妹の描き方としては不思議だなって思ってたメグルとユイの秘密が物語の軸になっています。
幸福プロップスの存在、舞台上の皆さんの理解の早さに客席が追いつかなかった感じはちょっと残念かな。
あと「引きこもり=不幸」というのは短絡的じゃないかなって思ったりもしましたが、高校生の視点で考えると、確かになーとも思ったり。
物語ラスト、実はメグルは交通事故で亡くなっていたことを知った時のユイの感情の爆発は素晴らしかったです。役を生きていた。心震えました。
2回しか審査員を務めていないのですが、客席を使った演出は学芸の伝統なのかしら?意図はさておき、代々伝えていく事ってなんかいいですね。照明もいわゆる基本を逸脱してはいるけれど、常識にとらわれず、いろんなアイデアを持ち寄って実践することこそが大事だと思います。
6.高知丸の内高校「部屋の中のセリヌンマウス」(創作)
心を閉ざしたみつきの扉を友人の太陽を中心に開けようとする物語。
冒頭の仲良しだった場面からの展開の性急さ、友情が壊れた描き方。
起こったことを台詞で説明しすぎているのはもったいなかったし、現実ではそんな形で友情は壊れないだろうし、さらにそんなに急にお父さん殺しちゃうのかー(今回3度目の交通事故)。
心を閉ざす場面まで一気に走ったあとは、なかなか物語は展開せず、そうなるとみつきの感情の変遷を丁寧に描かないといけないけど、なかなか難しい。
そんな中ネットゲームで出会った、しほとのボイスチャットのやり取りの見せ方やBGMは、文字通り世界がガラッと変わった感じになっていてよかったです。広い舞台を効果的に使ったステージングも、舞台転換を暗転ではなく、見せながら行うのもよかった。
あとこの作品は親子の愛情も大事な要素だと思うけど、場面によってお母さんの人格が極端すぎて、もっと丁寧に描いてほしかったなー。
タイトルの「セリヌンマウス」、ただの言い間違えで終わらさずにもうひとつフックがあってもよかったですが、演劇で友情を深めて、演劇で友情を取り戻すという展開、みなさんの演劇愛がしっかり表現されていたと思います。
ME、SEの使い方、とてもセンスありました!
7.土佐女子高校「パズル」(既成)
パンフレットでは本作は既成台本となっていますが、オリジナルは20年前に顧問の鎚谷先生を中心に土佐女子高校演劇部の皆さんが書き上げ、上演した作品とのことです。
物語の構成、舞台、照明、音響、ステージングと群を抜いているクオリティで、冒頭のストップモーションや、舞台上にたくさん出演者がいる中でのフォーカスの移し方などなど、注釈をつける必要の無い良質な演劇作品でした。
舞台はとある高校の演劇部の部室。次回上演する「ピーターパン」の稽古が進む中で、高校を卒業して大人への道を進んでいくみんなの将来の希望や不安、そして「大人になんかならない」ピーターパンの世界がリンクする劇中劇の構成。ここで主人公あいりだけが見える本物のピーターパンとのやり取りも加わっていきます。
タイトルにある「パズル」の言葉通り、演劇作品はたくさんのピースが揃ってこそ生み出されるものだと思います。
そのピースはみんなバラバラで、それぞれの情熱も、環境も、関係性も全然違う、自分の主催公演に当てはめて思えば、毎回毎回、よく上演までこぎ着けられるよなーってくらいのいろんな個性を持った人間が集まっています。そんなうっとうしいくらいの人間の愛おしさ、そして将来に向けて「いつかは立ち向かわないといけない」年齢の焦りやドキドキ、もうひとつ大事な「演劇の面白さ」が表現された作品でした。
8.小津高校「あなたはあなた、わたしはわたし」(創作)
「身体の性」と「心の性」が違うことに苦しむ美咲と颯太と、それぞれの恋人・幼なじみの桃花とさくらの4人の物語。
男性、女性それぞれトランスジェンダーの登場人物と、ふたりのパートナーのキャラクターがしっかり描かれていて、さらにはトランスジェンダーの当事者二人が映画「転校生」ばりに入れ替わるというダイナミックな展開ですw。
舞台は教室、街中、家の中とどんどんと展開し、舞台美術も最低限の作り方。舞台美術と言えば、2年前に見させてもらったときには各校工夫を凝らしていたのですが、今回はほとんどの学校がシンプル(というかエアー)な作り方で、これはコロナの関係で、これまで受け継がれてきたいろんな技術がストップしてしまった影響もあるかも知れません。
物語は、LGBTをテーマに選んだだけでなく、そこからの恋愛を描いたのも凄いと思います(きっとこの年代は、恋愛を描くの恥ずかしいよね)。コメディタッチにしながらもエンディング直前、ふたりが入れ替わったまま戻らなかったら、それぞれ心で思っている肉体(性)でいられるよって場面に言った「わたしはわたしだから」って言葉が、とても大切に思えました。
エンディングの早替えと、数年後の場面の描き方、背伸びした感じのみなさん、かっこよかったです。
9.東高校「小説の中の話」(創作)
家族が乗った車が雪崩に巻き込まれ、亡くなった父母を残して家に帰り、ふたりで暮らす兄妹だったけど、実は兄も亡くなっており、妹の妄想の中のお話でしたという…。
あらすじで書くとなんやねんですが、こんなありえない設定でも、その世界に真剣に俳優が身を置くことで演劇は成立できるし、それこそが演劇の醍醐味だと思います。
しかし残念ながら出演のおふたり、今回は役を演じきることが難しかったような印象でした。
舞台道具、暖炉は頑張ってましたね。あと家族のアルバムは大事な小道具だと思うのですが、事務用のフラットファイルというのは残念。
冒頭の事故の描き方は面白かったです。照明はセンターピンのカットイン、マスクアウトを効果的に使ってました。
10.中村高校「私たちは普通である」(創作)
前回審査した時は児童虐待という重いテーマを自分たちで考え、発表した中村高校。今回はLGBTをテーマにした作品となりました。
出演は仲良し女子4人組、放課後の教室に集まってお菓子を食べながら「彼氏ほしー」などと過ごしている、ダラダラした、けどゆるやかで楽しげな彼女たちの学校生活が冒頭から丁寧に描かれます。この「普通の日常」の描き方が素晴らしく、彼女たちのたわいがない、そして演技とは思えないほど自然な会話をずーっと聞いていたいくらいでした。
そんな中に飛び込んで来た事件。生徒会長選挙の結果、性別問わず制服を自由選択できる公約を校長が承諾したというニュース。「ありえない!女子はみんなスカート履きたいんだ!」と同意を求める百合と、その百合の物言いに傷つく性自認に苦しむ律のカミングアウト。
LGBTに対する4人のスタンスはそれぞれに違っていて、それぞれが感じる言葉がリアルに響きます。特に百合の言う「マイノリティこそが全てなのか?そのひとたちを優先して(気持ち悪いと思う)自分の感情を殺さなきゃいけないの?」という物言いにはハッとしてしまいました。
LGBTのセミナーや研修ではまず出ることのなかった「多様性の押しつけ」という視点。これを高校生が自分ごととして演劇で発信している凄さ。中村高校、いったいどんな学校なんや…。
物語はこのぶつかり合いの後、それぞれを理解し合う形で終わります。いや理解し合う為にぶつかり合ったとも言えるのかも知れない。
実際にはカミングアウトすることも、それを受け入れることも拒否することも難しい世の中で、彼女たちが演劇だからこそと挑戦した相互理解の形だったんじゃないかと思います。拍手。