劇団飛び道具「緑の花」大内卓、七井悠インタビュー
立命館大学の演劇サークルOBを中心に1997年に旗揚げし、長く活動を続ける劇団飛び道具。京都を拠点に活動する劇団が、はじめて関西圏を離れ、高知にやってきます。
今回上演する「緑の花」の作演出を務める大内卓さんと、2017年から劇団員として活動する俳優の七井悠さんにお話を伺いました。
──大内さんの演劇活動はいつから始められたんでしょうか?
大内 大学からですね。
──大学の演劇文化の影響は強かったのでしょうか
大内 それもあったと思うんですが、私が入るきっかけはそうでもなく、たまたま友だちと何となくという…(笑)。元々そんなに強い興味があってと言うわけではなかったんです。
──劇作もされたりしたんですか?
大内 学生演劇でいうと遅めなんですけど、4回生になってから台本書いて、演出をするようになりました。
──その後大学卒業されて、社会人になって、劇団結成と。
大内 飛び道具代表の藤原さんと大学生の時いっしょで、藤原さんが卒業後すぐ劇団を立ち上げるのかと思ってたんですが、彼なりの考えがあったみたいで、すぐには動かなくて。でも付き合いは続いていて、卒業後2年くらいしてから劇団旗揚げとなりました。
──劇団飛び道具という名前、非常にカッコイイんですが、名前の由来ってどこからでしょう?
大内 学生の時に単発のプロデュース公演みたいな企画があって、適当に「飛び道具プロデュース」って名前をつけたんです。由来は、今はそんな芝居やってないんですけど(笑)、学生らしくというか、飛んで行ったきり帰って来ないとか、武器に例えると飛び道具だよねとか、そんなところから来てると思います。
──旗揚げ以降、劇作だったり演出だったりは旗揚げメンバーの藤原さん山口さん含めた複数名でやられていたんですか?
大内 最初はそうですね。その後いつからか自分が台本と演出をやるようになって。元々台本を書きたがるのが私だけだったのもあって。
──劇団には同世代の方だけでなく、若い世代の方やスタッフの方も在籍しています。
大内 飛び道具の公演としては、いま年に一回しかやってなくて、それ以外は劇団外で活動される方が多く、そういう緩い繋がりがいいのかなと思います。
──七井さんは2010年に飛び道具に客演で出演され、2017年入団となっています。
七井 元々僕も立命館で、飛び道具の方とも繋がりがあって、2010年に誘ってもらって出演しました。そこから何年か音沙汰なくって(笑)、見には行ってたんですけど、2017年に久しぶりに出させてもらって、バラシしてる時に「七井君、劇団入らんか?」って代表の藤原さんに言われて「分かりました、入りますー」って(笑)
──七井さんから見て、入団前の飛び道具のイメージってどんな感じでした?
七井 はじめて見たのが20歳の時だったんです。言葉がアレですけど「凄い上手いな」「俳優がちゃんとしてるな」という印象で。そこから僕もいろいろ見たり出たりしてるんですけど、飛び道具のイメージは最初の時から変わらないなって思います。
あと出てくるキャラクターというか、人の描き方が独特ですね。
──今回の作品についてですが、あらすじだけを読んだら(遺跡ツアーに来た日本人観光客が拉致され、地雷撤去に従事させられるというもの)、えらいことドラマティックかと思いきや、実際は今のしんどい世の中を生きる人だったり、ある家族の再生だったり、人物を丁寧に描いている印象でした。
大内さんの劇作についてお伺いしたいのですが、最初にテーマを決めてプロットを作って落とし込んでいく形なのか、例えば冒頭のシーンのように、ひとつのモチーフから転がしていく形なのでしょうか?
大内 後者に近いと思います。台本を書くときに設定ありきというか、今回のように遺跡ツアーで地雷撤去とか、そういう設定からスタートすることが多いです。なんでそんな設定を思いついたかとかはちょっと分からなくって(笑)、というかいつもそんな設定を探してまして、今もいろんな設定があって頭の中で育てていると言いますか(笑)。そうやって育てている中で「これは台本になりそうだ」と思ったやつを作品にする、みたいな作り方をしています。
でも、そんな設定にもかかわらず、書く中身は言われるように家族のことだったりしてまして、設定とテーマが意識しないと分離してしまうことがあって。でも、今回の作品はその点は大丈夫だと思います。
七井 家族だったり、人間…人のどうしようもなさだったり、人の業っていうのもアレですけど、そういうことをずっと書かれていると思います。
設定でいうと世界観が突飛といいますか、ぶっ飛んでいるのはそうだと思います。僕が入ったときの作品は「こどもが生まれなくなる病気が流行っている世界」で、SFではないんですけど不思議な空間に置かれて、そこで人間性を語る作品だったり。
──設定は確かに飛び道具ですね(笑)
七井 さらに昔だと、冥王星に移住した人の物語とか。
大内 お城みたいなところに閉じ込められて何代にもわたって過ごすみたいな話だったと思います。
──今回再演作品となりますが、再演も定期的にやられているんですか?
大内 あんまりしないんですけど、今回はいろいろあって「再演でいこう」って決まってて。いくつかの候補がある中で、誰かが「緑の花」を提案してくれて。作品の内容としては、長いこと群像劇的なことをやってなかったんですけど、「飛び道具の俳優に群像劇っていいな」ってあらためて思って「緑の花」にしました。
──戯曲自体は初演と変わってないんですか?
大内 戯曲は最初のあたりを変えたのと、演出的には「緑の花」の描写が大きく変わっています。
──今回の稽古がはじまったくらいのタイミングで、劇団のSNSで「緑の花は本当に緑色なのか?」みたいな議論をしていました。
大内 今回は再演だったんで、まだましだったと思うんですけど、通常は台本書き上がって「これ、何の話なの?」というか、書いた本人も分かってなかったりすることもあって、その辺をみんなで話し合いながら、紐解いていく。そんな作り方をしていて。今回も再演とはいえ「よく分からないところを分からないままに進めない」という稽古でした。
「花が緑じゃなかったら、タイトル変わっちゃうやん」って思ったんですけど(笑)
──劇作と演出をされていたら、「答えは自分しか知らなくて、どこまで俳優に伝えるか」という演出ではないんですね。大内さんも本を疑っているような。
大内 疑っているというか、分かっているつもりでも分かってないんで…(笑)
──劇中の花は、繁殖して、種を残して拡げていくという、生き物の本能というか、シンプルなイメージで描かれてます。
大内 もともとプリミティブなものへの憧れというのが若い頃からありまして。例えばベタですけど途上国への憧れとか。
──今回高知公演を行うことになったのはどういう経緯だったんでしょうか?今言ってもらったプリミティブな、未開の土地っぽさは高知にありそうですけど(笑)
大内 そこは(高知と繋がりのある)七井さんが話してもらう方がいいですか?
七井 いや、大内さんがどう思ったかを聞きたいです。
大内 なんか、ぶっちゃけると「どっかでやろう」みたいな感じでしたよね(笑)。どこか地方っていう言い方もアレですかね。いい場所ないかなって。
みんなで「知らない場所に行ってみたい」みたいなのが正直なところかなと。
七井 飛び道具は長く続ける中で、いい評価はあるけどお客さんが増えてない時期があって、少なくても悪い芝居はしていないから、もうちょっといろんな人に観ていただきたいなって気持ちがあって。そんな中で僕が高知とのつながり(2019年蛸の階「行き止まりの遁走曲」、2022年ヨシダワークス「命を弄ぶ男ふたり」)の中で「高知のお客さんにも観てもらいたいな」って劇団に提案しました。
──ありがたいです。いろんなつながりが実を結んで、今回飛び道具さんを迎えるっていうのは、本当にありがたいことです。では最後に高知のお客さまにひと言いただけますか?
七井 えー(困惑)。えー、ど、どう言おう…。自分で「いい芝居です」って言うのも難しいですね…。ただそうっすね、いわゆる演劇の良さっていうか、いろんな演劇がある中でも古典的というか、ストレートプレイって言うんですかね。戯曲があって俳優がお客さまの前で演じるっていう、演劇を実直にやっている集団なので、ぜひ観てもらいたいです。
大内 今回持っていく作品、登場人物の変転が私の台本としてはめずらしく丁寧に結末まで描かれていまして。飛び道具の俳優って「めちゃくちゃな変転をする人物」でもリアルに魅せる、会話を成り立たせる技術が高くって。そういう俳優さんの力もぜひ観ていただきたいです。
──ありがとうございました。あとは高知に来たら酒を飲むとも聞いてますので、楽しみにしております!
劇団飛び道具「緑の花」高知公演は6月29日(土)30日(日)、蛸蔵で上演します。たくさんのご来場お待ちしております!