多田淳之介 演出「その人を知らず」(2024.10.23)
多田さんの作品を観るのは2016年の東京デスロック「亡国の三人姉妹」以来。ずいぶん久しぶりとなってしまいました。
今回は四国学院大学のアーティストインレジデンスプログラムとして、スタッフワーク含めて学生達と作った作品(多田さんとシコガクの皆さんとの創作は2016年「ロミオとジュリエット」以来)です。
企画した西村先生から多田さんへのリクエストは「戯曲をやってください」というオーダーだけだそうでw、極めて制約が少ない中で現在の多田さんがどんなクリエイションをするのか、期待しての観劇でしたが、想像を遥かに飛び越えるもの凄い劇体験となりました。
作品は三好十郎の「その人を知らず」。太平洋戦争のさなか「殺すなかれ」というキリストの教えを守り、出征を拒否する青年とその周囲を描くもので、2017年には文学座、文化座、民芸、青年座、東演が組んだ「新劇交流プロジェクト」として上演されている、まさに新劇直球と言ってもよい内容です。これを多田さんがやると…。
ロビーから場内に入ると、巨大なスクリーンが目に飛び込んできます。舞台の上には乱雑にモノが置かれ、その中には十字架や日本国旗も見えます。客席も通常の演劇公演とは違う、まるで斎場のような並び方。客席後方を振り返ると、大きな旭日旗が掲げられており、なんとも物々しい雰囲気。
客席に入って感じる劇空間のインパクト。客席もアクティングエリアとして使われる演出。この劇空間にいる観客ひとりひとりも当事者だよと突きつけられる多田さんの作り方は一貫していて、「争い」「平和」について考えることを諦めない誠実さにも繋がっていると思います。このクリエイションをシコガクの皆さんが体験し、社会に出て行くことって…、何というか…、尊い…。(語彙力)
開演直後は、(学生とのクリエイションなので当然なのですが)憲兵を演じる方の台詞の出し方など、俳優の技量的な違和感を少し感じましたが、そんな小さな粗なんか飲み込むような物語の進み方と、それぞれの正しさ・後ろめたさを胸に必死で生きる登場人物、それに負けない熱量で必死に演じる俳優・スタッフの皆さんの思いが塊となって転がってくるような、終わってみたらエクスキューズなんかない、約3時間の圧倒的な劇体験となりました。
終演後、劇場を出て浮かんだのが「演劇ってすごい」という言葉。
四国の、香川の、善通寺から、世界に向き合えるような作品を生み出しているということを、少しでも知ってもらいたいと思ったことでした。
四国学院大学ノトススタジオの皆さん、多田淳之介さん、ありがとうございました!