「窓の彼方へ」内藤裕敬インタビュー(2013.06.05)
——仲道さんとの企画は長くやられていますが、そもそもどういう経緯で始まったのでしょうか?
内藤:仲道さんが、「クラシック音楽は、このままほっとくと博物館に入ってしまうようなものになる。もっとお客さんが来なきゃいけないし、聞いてもらわなきゃいけない。本来はもっと自由で楽しいものなんだということを伝えなければならない。」という風に考えられていた。
それで、楽曲をもっと自由に聞いていただくための「お話」を前半に、後半にコンサートをするという形でやってみたけど、どんなに楽しい話をしようとがんばっても、どうも学校の音楽の授業っぽくなってしまう。
なんとかならないかとプロデューサーに相談したら、演劇を取り入れたらどうかという話になり、自分が呼ばれた、というのが最初のきっかけです。
——なぜ内藤さんに白羽の矢が立ったのでしょう?
内藤:当時のプロデューサーが現在地域創造のプロデューサーを務める津村さんだった。津村さんがなぜ俺を選んだのか明確な理由はわからない。最初は自分も仲道さんもお互いのことを知らない状態で、津村さんから話を聞いて、果たしてできるのかと思った。向こう(仲道さん)も「この人大丈夫かな?」って思っていたと思う。
——でも、仲道さんの中には、何とかしなきゃいけないという危機感があり、そこで違う演劇の才能のある人を求めていたということですね。企画の始まりはどういう作り方だったのですか?
内藤:構造としては、仲道さんが演奏する楽曲がまずあり、自分はその楽曲を説明するわけでもない、どういう成り立ちかとか、作曲家を説明する訳でもなく、その楽曲を自由に聴けるかたちで、前半30〜40分のお芝居を作れないかというお話だった。
でも、それは向こうの希望であって、それがどういう形になるのかは、向こうもわからないし自分もわからない。作ってみたら、「え、これじゃあ…」みたいなものだったらどうするんだ、っていう危惧は向こうには働く。こっちはこっちでクラシック音楽がわからない。最初は、そんなに期待に応えられるかわからないという感じだった。
——そこで、試行錯誤しながら最初のかたちができあがったと。
内藤:それが、偶然受けがよかったんだよ。
——1回やってみて、もしだめだったら、2回目3回目の企画はひょっとしたら生まれなかったかも知れないですね。でも、結果としてすごくヒットして、全国各地でやるようになったと。
内藤:クラシックと他のジャンルのコラボというと、これまでうまくいった事例が少なかったので、評価も良かったのかも知れない。 しかし、自分にとってはそれほど新しいことをやったという気持ちはなく、終わったときに、演出家や劇作家など、いろんな才能を持っている人がいっぱいいるから、来年以降もおやりになるならば、別に僕にこだわる必要はないですからね、いろんな方とおつきあいして、いろんな形の作品づくりをおやりになったらいかがですか、と言った。
——でも、仲道さんとしては、内藤さんとやりたいという話があったんですね。
内藤:まあ、もう一年やってくれという話になり、それが3年、4年となって、結局10年までいった。
——それで、やっていくうちにどんどん新しい作品の話がでてきたと。
内藤:というよりも、10年間続けることで、いわゆるコンサートのためのお芝居があるというのは、ちょっともうこれ以上かたちがないというか、やればやるほど段々と楽曲に踏み込んでいくかたちになってきた。
それで、やはり最初の一年よりも楽曲のコアな部分を、僕に仲道さんが説明するようになるし、それを踏まえてやると、お芝居が難しくなって一般性を欠くような話になってくる。もし、ちゃんと楽曲に踏み込んだものをやるならば、別の企画でやらないと、この10年間の企画の流れでは作品にならない、という話を7年目くらいからしていた。とりあえず10年やって、終わってからそれを考えましょうと。
——そこでできたのが、次の「4×4」、そしてそれを経て今回の「窓の彼方へ」と繋がっていくんですね。「窓の彼方へ」は芝居と演奏が分かれずそのままリンクしたひとつの作品になっていますが、この構造についてはどう考えたのでしょうか?
内藤:「4×4」という、先行する作品がちょっと観念的になりすぎたので、お芝居をもう少し身近なモチーフで始まるほうがよいのではという感じだね。まあ遊びながら作ったら構造自体はこうなったと。作りながら、こういう構造かなというのはおぼろげに出てきて、ガチッと最終的に作り上げたという感じ。
——今回はすべてショパンの楽曲を使われていますが。
内藤:ショパンははじめから仲道さんのほうから提案があった。次はショパンでやりましょうと。だから、「窓の彼方へ」は、ショパンで作るというのが前提だった。あとは、コンサートホールではなくて、普通の演劇の劇場でもできるようなかたちで反響板を兼ねた舞台美術をつくるというのが前提としてあった。
ショパンの晩年、ジョルジュサンドという恋人がいて、サンドの故郷であるノアンという田舎町の屋敷でずっと一緒に暮らしていたそうで、そこの窓が大きくて非常に印象的な家でその部屋で作曲活動をしていたと。 ショパンはその窓を見て、ピアノに向かいながら何を見たのか、作曲しながら、夜の暗い窓の向こうに何を想像したのか、ということは自分も考えた。
そこで反響板の代わりに大きな窓をどんと置こうというのが最初にあった。そうすると、窓がどんとあってピアノがぽんとある、その部屋で起きることはってなると、そういうアパートで遊んでみようかと、そんな感じでどんどん膨らましていった。
実は、ノアンの屋敷を写真で見たことがあって、ショパンはそこにいたのかと想像した。そうすると、窓の中の話と、窓の外の話をやりたくなった。
一人の女性が部屋を借りようと思って部屋に案内されると、古いピアノがひとつ置き去りにされていた。もう何十年もその部屋はいろんな人が入れ替わり立ち替わり暮らして出ていったから、誰が持ち込んで、誰が置いていったのかもわからない。そのピアノを弾き出すと、その部屋での時間が蘇ってくる、というスタートラインから、その部屋で何が起こったのか、また外側からその部屋、窓はどう見えていたのか、誰が暮らしているように見えたのか、というのを、物語にできないかなと。
——その部屋の長い歴史の中で、暮らしていた人の人生だったり、そこから見えた景色の移り変わりだったりとかがピアノの演奏とリンクして進んでいくということですね。それでは今作の見どころを教えてください。
内藤:いっぱいあるんですけど、ちょっとクラシックコンサートではあり得ないこともいっぱい起きるし、逆に、クラシックコンサートでは味わえないような楽曲のイメージを味わえるし、仲道さんがおっしゃっているのは、楽曲に何か具体的なモチーフを持ち込むことで、楽曲の幅が狭くなるのは困るけど、演劇かなにか、楽曲に対する違うアプローチのモチーフが持ち込まれることで、より違ったイメージをその楽曲が発散する可能性がある。仲道さん自身も弾いていて楽曲に対する新たな発見があるそうです。そういう意味では、ショパンの楽曲に関してはコンサートやオーディオでたくさん聞いた、という方でも、何か新しいショパンのイメージに出会えるかもしれない。
演劇の方は、クラシック音楽の持っている魅力のようなものが、演劇に、言葉に奥行きをすごくプラスしていくので、普段だったらば、普通に通過していってしまうようなシーンや言葉の向こう側に、もしかしたらいろんなものが見えるかなと。具体的にはいろいろあるけど、それは見てのお楽しみ。
——ちなみに仲道さんはどういった方でしょうか?
内藤:仲道さんはいっしょにいて肩のこらない方で、出演者とも気軽に食事やお酒にいくし、一緒に遊びに行くし、小倉とかでやってると、「内藤さん今回は釣りに連れて行って下さらないんですか」とか。釣りもいきたがる。
——なべげん(小倉の美味しい大衆酒場)も行ったり?
内藤:なべげんも行って、フルコースで。
——高知のフルコースも是非楽しんでいただきたいですね。
内藤:高知競馬に仲道郁代出現!!
——ちょうどやっていたらご案内します(笑)。続いて高知についてお伺いします。高知はさまざまな企画で内藤さんにお世話になっておりますが、お芝居の面での高知の印象はどうでしょう?
内藤:都市と人口の規模の割には演劇が盛んだと思う。そして、演劇を志す人も多くいるし、その人達はある程度の力を持っている。鍛え方次第ですごく伸びる。その人達がおもしろい作品を発想することがあれば、お客さんも増えるし、飛躍的に高知の演劇が盛り上がる可能性がもうすぐそこにあると思う。
——もう一息ですね。
内藤:そうですね。
——あとは、高知の思い出やエピソードを。
内藤:高知に来ると、みんなあちこちの店に散らばって飲み食いする。それで、宿舎に帰ってきて、情報を交換して、いいなと思ったところに次の日別のメンバーが行く。そしてさらにいろんな開発が行われて、割と繁華街がまとまっているので、すべてを網羅して、いろんなものを楽しめるというのが良いね。
ここ最近のブームはウツボだね。ある店のウツボのタタキはたれじゃなくて塩とわさびでいただくんだけど、これがうまいんだよ!
——そして今回初めて、須崎市立市民文化会館で上演しますが、これまで須崎市に行かれたことはありますか。
内藤:須崎は、その手前の横浪まで釣りに行って、須崎のスーパー銭湯に行こうとなって、立ち寄ったことがあるくらいかな。
——街中で泊まったりとかは。
内藤:ないですね。
——須崎は魚が美味しく、ホールの目の前に港があり、釣りも盛んなところですので。
内藤:ちょっと釣り竿持っていこうかな(笑)。
——ぜひぜひ(笑)。最後に、高知、須崎公演を見に来る方に一言。
内藤:変わった作品ではあると思う。結果的に。
だけど、変わった作品だからといって、取っつきにくいものにはまったくなってない。珍しいけど、難しくないし、そういう意味では先入観を持たずに、リラックスして楽しんでいただければ、きっといろんなものを持ち帰っていただけると思う。かな。
——ありがとうございました!
「窓の彼方へ」高知公演は7月11日(木)18:30開演、須崎公演は7月13日(土)14:00開演です。たくさんのご来場お待ちしています。