(寄稿)高知新聞 閑人調 2024.10.01「ゴール」

高知で生まれ、高知で育ち、高知で文化に関わる仕事をしている。出会った人たちと時間を重ねて、高知でしか生まれない舞台作品を制作している。

出会った表現者の中には、上京して頑張っている人もいる。沢山の人が集まり、沢山のチャンスがあって、沢山の評価が下される場所。熾烈な競争を勝ち抜いた先には、大会場での上演や、映画やドラマの主役なんてゴールがあるかもしれない。挑戦する彼らを尊敬するし、エールも送るけど、個人的には表現者のゴールは、もっといろんな形があってもいいなと思っている。

先日、高知県内を巡演した演劇公演「12人の怒れる土佐人」が終わった。出演した12人の市民に対して、演出家はこう言った。「プロの俳優を真似る必要はありません。みなさんにはプロの俳優がどんなに頑張っても真似出来ない、これまでの人生で培った顔と声があります。その人生をこの舞台に貸してください。」

その土地で暮らし、仕事をし、食事を作って、家族を養う。それぞれの生活を持った人たちが稽古場に集い、バカ話で大笑いしながら稽古を重ね、生み出される作品。きっと東京では作ることのできない、生活と地続きの表現こそが何よりも豊かなはずだ。そう信じて、これからも高知で舞台を創っていきたい。