劇団UZ「牧神の星」(2025.05.17)

劇団UZは凄い。
作品も凄いけど、行動力が凄い。
シアターねこのピンチの際はいちはやくエイドを行い、混迷する松山市の文化拠点施設に対しては他の文化団体に呼びかけて市に要望書を提出し、自前の稽古場を借りることも、その稽古場を劇場にしたことも、つくづく凄い。
作品発表だけでなく、劇団の活動や意思表示も含めて、社会とどう向き合うかという演劇の本質を感じる。凄い。
噂の新劇場・アトリエhacoは、完成前に見学させてもらいました。
全てDIYで作ってるのもそうだし、もともとシアターねこでの上演を想定しての稽古場だったので、舞台サイズはほぼシアターねこと同サイズ。本番までに同じ場所でじっくり時間をかけて創作できるというのは、ホントにうらやましい。
ただし、夏は地獄のように暑く、冬は地獄のように寒いそうで、そこはうらやましくない…。
キャパは40席ほど。2週にわたって土日のマチソワ開催という全8ステージ。
地方の劇団がこれだけのステージ数を重ねられるのも素晴らしいことです。
会場前のスペースには飲食などの出店などもあり、なんとも良い雰囲気の場となっていました。
さあ、肝心の作品につきまして。
劇団UZをはじめて観た前作は、教育や福祉などのセーフティネットから漏れてしまった「社会的に存在しない」ような扱いを受ける若者の貧困や犯罪がテーマでした。今回は終戦直後に起こった陸軍将校のクーデター未遂事件を題材に、その作品の稽古に励む地方の劇団を描くというもの。
「いまどき芝居って、承認欲求おばけっていうか」
「知らなかったはずないでしょ?あれだけ空襲されて」
「地方で演劇続けていたら、辞める理由しか出てこない」
「いっそのこと戦争起こった方がいろいろリセットできるんじゃない?」
「もう何年経つだろう、あの日私たちは公演の最中だった」
個人と登場人物、社会に蔓延る焦燥感や断絶、現実とフィクション、そして時間軸が混ざり合う作り方でした。
物語のひとつの軸(戦争)は、新劇的にも思えて少し意外に感じたのと、もうひとつの軸(地方で演劇を続けること)については、「社会的に存在しない」くらいに見られている彼ら(というか僕ら)の精一杯の声が胸に響きました。
一方、自分たちを模した劇団員を演じるというのは、なかなか不思議な感じで、いわゆるリアルさからはあえて離したのかな。唯一、舞台には登場しない作演出家が「知り合いの劇場が閉めたから機材を安く買い取った」と劇団員には報告せず、コソコソ機材を増やす姿はリアルに浮かんできましたw
演出面は、劇団的にいろんなことをできるだけ詰め込んでやってみる段階なのかな。中島らもさんの「頭の中がカユいんだ」にも通じる、いろんな景色や言葉が溢れてしまうような混乱を楽しめる一方で、個人的には、重くて苦しいかも知れないけれど、いろんな要素をそぎ落とした伊豆野さんの作品も観てみたいなーとも思ったことでした。
芸文振の助成を獲得したり、CoRichの最終選考に残ったり、四国の枠からも飛び出しそうな劇団UZさん。次回公演はどんな歩みを見せるのか、ワクワクしながら注目しています!