劇団飛び道具「鉄橋の下、三日月の上」大内卓、七井悠インタビュー

京都を拠点に活動する劇団飛び道具が、昨年に引き続き高知にやってきます!
新作「鉄橋の下、三日月の上」について、作演出を務める大内卓さんと、俳優の七井悠さんにお話を伺いました。

──2年連続の高知公演、ありがとうございます。昨年の「緑の花」は、高知のお客さんからも良い評価をいただきましたが、劇団として初の高知公演の手応えはいかがでしたか?

大内 いつも京都や大阪で公演を行うとき、特に初演はいろいろ追われて劇団員の皆にも負担をかけることが多いのですが、昨年の高知公演(再演作品)は劇団員の皆も楽しそうで、行ってよかったなというのが一番の感想です。

──初演・再演で作り方にも差が出る感じですか?

大内 再演の方が、俳優さんの仕事できる時間が単純に多くあるかなと思いました。特に今回は台本が遅れちゃったので…。

──七井さんは高知公演いかがだったでしょうか?

七井 飛び道具のお芝居って、質は悪くないし、いろんな人に観てもらいたいって思いがあって。高知公演をやって、お客さんの反応もそうですし、アンケートの回収率も高かったり「来年また来てください」と書いてもらったり、やって良かったなと思います。

──僕もいざお迎えしたら、作品も素晴らしいし、劇団としても非常に素敵な酒飲み集団で(笑)、なんとも気持ちの良い交流ができたなーって思ったことでした。

七井 ちなみに前回の高知公演初日後の飲み代が、ちょうどツアーの赤字分だったらしいです。飲み過ぎて赤字になったと(笑)

──ぎゃー、ごめんなさいー(笑)

七井 いやいや、大丈夫です(笑)。特に今回は京都公演の動員も良くって、ツアーに向かえますので。

──では、今回の作品について伺います。実はこのインタビューは当初、京都公演の前に行って、京都公演も含めたプロモーションになればと思っていたのですが、ギリギリまで台本が難航した関係で(笑)、京都公演終わってからとなりまして。

大内 すみません…。

──いえいえ、高知でも新作を観られることはありがたいです。お話を可能な範囲で教えてもらって良いですか?

大内 取り壊しが決まっている古い団地に、ある日バリケードが築かれて、そこに中高生が立てこもっているという設定で話が始まります。さらに中高生の立てこもりはその団地だけでなく、他の場所でも行われているという情報も入ってきます。
どうやらそれは心の悩み相談サイトみたいなところで、死にたいって書き込んだ子に対して、尾崎豊を名乗る人物が会話に割り込んできて、最終ネット上ではなく実際に集まろうとなったと。
舞台は団地の入り口で、奥にいる中高生は出てきません。団地に集まった大人達は、全員善意の人しか出てこないのですが、それぞれ方向性が違っていて。立てこもった中高生をその場所で守ろうとする大人がいたり、救いだそうとする大人がいたり。
なぜ中高生が立てこもっているのかという理由が、物語の焦点になりながら進んでいきます。

──キーワードになるのが尾崎豊さんという。

大内 ティーンエイジャーに焦点を当てて書いてみようとしてまして。だいぶ前から尾崎豊さんを使って書いてみたいという思ってたんですが、全く設定が思い浮かばず、どう描こうって考えながら本番日を迎えたっていう(苦笑)
設定でいうと、最初に出した本は全く違うシチュエーションで、皆に読んでもらって「ダメだね」ってなって(笑)

──最初に出した本は七井さんも読まれたんですか?

七井 読みましたけど、全然違う感じで。非常に概念的な、青少年特有の不穏な感じみたいなのが先にあるんだろうなと思って読んでたんですけど、現実と乖離している感じで、イメージは強くあるんでしょうけど、それをどう登場人物とかで説得力を持たせるのかっていうのはかなり大変だなと思って読んでた記憶はあります。

──ちなみに先週、京都公演が終わったところなんですが、台本が完成したのはいつくらいだったんですか?

七井 小屋入り前日の稽古で本読みして、大内さんに見てもらって。小屋入りして稽古して、なので実質2日間くらいで作ったみたいな感じです。

──稽古期間は1ヶ月くらいですか?

大内 最初の方は週1くらいで初めて、2ヶ月くらい稽古期間を取ります。いつも本番の1ヶ月とか20日前に台本の第1稿が上がるんですけど、そこからのリライトが今回特に大変で…皆と話しながら形を作る作業をするのですが、今回そこが本当にギリギリになってしまって。京都公演は無事終了して、お客さんの評価も良さそうな感じだったんですが。

七井 個人的には、今まで飛び道具に参加した中で一番好きな作品だなと思ってます。大内さんの作品は基本的に親と子どもっていうのがテーマとしてあるなと思って、今回は子どもが登場しない状態で、親とか親世代、大人たちがいろいろやってドラマになるんですけど、この不穏な感じというか、バリケードの向こう側に何があるんだみたいなのをすごく想像させる…。最初に概念的だなと思ったのもそこなんですけど、それがすごい面白いなと思って。

──結果書き上げた作品は、ご自分としてどうですか?

大内 出来上がったものとしては、テーマ性が強いというか、思いのようなものが強く込められている作品ではあるなって思います。再演に値する作品かなって思ってはいるんですけど、たまたま今回関西圏の1回だけではなくて、ちょっとだけ間をおいてまた高知で上演できる…作品として、まだこの後ろがあるのは、本当に劇団として良かったなって思ってます。

──ちなみに大内さん個人として、尾崎豊さんに思い入れがあったんですか?

大内 私が大学1年か2年くらいのときにお亡くなりになって。中高生の頃は田舎に住んでいたんでライブも行けてないんですけど、当時凄く好きだったんです。お客さんにも話を聞くと、同世代でもハマった側とハマらなかった側がいて。私は一時すごい好きだった方です。

──今の若い子が、若者の苛立ちや焦燥感を表現する尾崎の言葉や音楽に引き寄せられて、しかもバリケードというのが、京都という街もそうですし、学生運動のようなイメージも浮かびます。

大内 バリケードはなんか反抗とかそういう意味合いというよりは、セリフで説明もしてるんですけど、何か本当に区切りみたいな、外と中の強い区切りみたいな意味合いで作られてて、闘争的な意味合いではないです。

──ちょっと話が戻るんですけど、 小屋入り直前で最終稿が上がって、一気に仕上げるというのは、俳優的にはどんな感じだったんでしょうか?

七井 飛び道具でこんなに台詞が覚えられないっていうのは初めてで、ちょっとやばいかもと思ったんですけど、まあ2回ぐらい通せたらなんとかなるだろうみたいのはありました。

──それでは、高知公演に向けての意気込みをお願いします。

七井 大内さんと同じく、京都公演の後に高知でもう一度できるのは、本当にありがたいなぁと思っています。自分の中での手応えとかいろいろあるんですけど、それをブラッシュアップさせて、高知の方に見てもらえるというのは俳優としてやりがいもあることなので。
物語は正解がある話ではなくて、モヤッとしてて、おそらくいつもの飛び道具よりかは沈んでる感じなんですけど、そういうのも含めて持ち帰っていただきたいなと思ってます。

大内 普段の作品の感想は「共感しました」「私も同じです」みたいなのが多いんですけど、今回はそうじゃない人も割といまして。単純に尾崎にハマらなかったとかもそうですし、見方によっては、子どもたちの閉じこもっている理由にしても、必ずしも擁護できるものではなかったりするんですよ。
作品としてはその子どもたちを守る側を主軸にして、そっちに感情移入するように作られてるんですけど、逆の立場の方が正しいだろうとか、違う意見も今回多くいただいてて。そういう感想は私のこれまでに作品では無かったので、そこをしっかり、高知の方にも感想を持ってもらえるよう作品を創っていきたいと思います。

──ありがとうございました!劇団飛び道具「鉄橋の下、三日月の上」は、6月21日(土)22日(日)高知・蛸蔵にて上演します!高知のお客さまはもちろん、京都公演を見逃した関西の飛び道具ファンもぜひご来場ください!

劇団飛び道具「鉄橋の下、三日月の上」(2025.06.21-22)