男肉 du Soleil「悲劇 EXPO 2025」池浦毅インタビュー

上半身裸の中年男性たちが、ポップカルチャーやサブカルチャーを敷き詰めた物語世界で歌い、叫び、踊る、超絶エモーショナルな演劇・ダンスカンパニー「男肉 du Soleil(おにくどそれいゆ)」の四国初公演が高知で実現!高知公演にかける意気込みを、団長の池浦毅さんにお伺いしました。


──よろしくお願いします!関西の演劇仲間から「相当クレイジーな集団がある」と男肉(おにく)の噂を聞いていたのですが、まさかの高知公演が実現するに至った経緯を教えていただけますか?

2017年か18年ぐらいに、仲良しの劇団、ヨーロッパ企画の高知公演を観にきまして。その打ち上げの席で、県民文化ホールの事業担当の濵口さんと「ドッジ弾平」の話で盛り上がって(笑)、「いつか高知公演したいですね」みたいな話をしたんです。それが今回カンパニーの結成20周年ということで、ご縁が繋がってっていう形です。

──カンパニーはどういう経緯で結成されたのでしょう?

近畿大学の芸術学科舞台芸術専攻で学んでいたんですけど、大学3回生のときの文化祭で、オムニバスダンス公演に出ることになりまして。大学(学部)の性質上、生徒は女性が多くて、男性が少なめなんですけど、全員男の友達を集めて、体ブンブン振り回すような「ダイナミックなダンスやろうぜ」みたいなことをやったんです。
あと大学のオムニバス公演って、振付家とダンサーの名前がパンフレットに乗るんですけど、逆にオムニバスの中にちゃんとしたダンスカンパニーがある方が面白いと思って。名前を決める前日にシルクドソレイユのDVDを見てて、男の肉ばっかりで男肉ドソレイユみたいな(笑)。
何となく語感がいいってノリでスタートして、そこから緩やかに続いていって「卒業後もカンパニーでやっていこう」と決めた時も、名前はそのまま「男肉 du Soleil」にしました。

──最初に文化祭でやったステージから、手応えだったり「カンパニーでやっていこう」という気持ちが生まれたのですか?

最初はその場限りだと思ってました。でも文化祭が終わってからも春の新入生歓迎公演とかいろいろ発表する場があって、その度に友達や後輩とかを募って活動をしていました。ある時、学外でやる機会があり、その時に一番信頼できるメンバーを集めて、そこで初めて手応えというか、カンパニーとして続けていく力があるなって思って。みんなに「男肉所属になってくれ」って口説いて、本格的に始まったって感じです。

──お客さんの反応はどうでしたか?

最初は友達中心で、少しずつ他の大学の人たちも見に来てくれて。あと最初からジーパンに上半身裸という今と同じスタイルなんで、コントのような物語もありつつ、乱痴気騒ぎみたいな珍しさが少しずつ評判になったかなと。

──カンパニーができた当時から、作風や方向性は定まっていたんですか?

今は演劇的な部分も強いのですが、結成当時はよりダンスに近いっていうか、物語がちゃんとあるというより、連続性のないコントやお芝居を身体パフォーマンスで繋いだりしていました。でも大きな枠組みとして、最終的に全員が死んで、ふんどしの人が出てきて、歌って生き返るっていう、デウス・エクス・マキナって呼んでるんすけど(笑)、ギリシャ劇の神が出てきてみんな生き返ってチャンチャンっていうスタイルは一番最初からやってました。ファミコン世代なので、例えばドラゴンクエストは死んでも祈ったら生き返るんで、歌を歌えばみんな生き返って、悪いことしたやつも全員改心してハッピーエンドみたいな作り方を、大学生から含めたら20何年やり続けてます。

──基本的には大阪・東京の小劇場を中心に活動していると思うんですけど、今回20周年でツアーを回る(大阪、愛知、東京、高知)ことになったのは、どうしてでしょう?

ツアーは過去に福岡、大阪、京都、東京という4都市を回ったことはあったんですけど、京都大阪って半分ぐらい来てる人一緒ですし、ツアー感は薄くって。それで去年20周年に向けてどうするか、皆で話したときに、東京公演を長くやってみるとか、テント立ててやってみるとか、いろいろアイデアを出しあう中で「ツアーを回りたい、今までやったことない場所でやってみたい」って意見があって。
名古屋は東京と大阪の中間にあるので、一度は行ってみたいなというのと、高知は海外のダンサーを招聘したりとか、よさこいとか、ダンスに熱いって噂を聞いていたので。とはいえツアーで高知に行くという勇気も…正直「大赤字になるよなー」みたいな不安もあったんすけど、20周年なんで。冒険心を持って高知やりたい!と決めました。

──ありがたいことです。でも高知公演をやるとして、会場規模からいったら(高知の小劇場)蛸蔵が適しているかと思うのですが、あえての公共ホール…。

(県民文化ホール濵口) 去年オレンジホールで少年王者舘をやったじゃないですか。あの公演は当初舞台上舞台だったのが、急遽舞台と客席を分けて上演したんですが、いい感じのコンパクト感が出たんです。グリーンホールだとなおさら小劇場の空間が作れるかなっていうのはずっと思ってて。

最初は僕もネットで調べて、蛸蔵さんが会場の大きさ的に合致するんじゃないかなと思っていたんですけど、こういう濵口さんのご縁があって。

(県民文化ホール濵口) 公共ホール初の男肉です!

──クレイジー…。

クレイジーですね(笑)

──では作品のことについて伺います。映像を観させてもらって最初に思ったのが、ヒップホップのトラックが非常に洗練されていて。ラップも真似っこじゃなく、しっかりしていたことにビックリしました。

劇中でラップするトラックは、作曲家さんにお願いして、歌詞は僕が全部書いてます。僕自身、高校時代からヒップホップが好きだったので。もう1人団員の高阪勝之もラップが好きで上手いので、高阪を中心にラップを指導してもらいながらやってます。
あとは懐メロ…僕が小学校中学校時代に流行った曲とかでショーアップ的に踊るとか、ゲーム音楽っぽい音源を使ったり。NERD(オタク)的な音楽からヒップホップミュージックまで取り揃えてやってます。

──作品に関してもポップカルチャーとかサブカルチャーの要素がいろんなところに網羅されていて。これは池浦さん自身の好きなものを反映していると。

本当そうですね。僕は、マンガ・アニメ・ゲームがとにかく好きで、映画も好きで。その中でも、ディズニーランドよりはUSJ派で。ディズニーってディズニーの世界観をやりきるじゃないですか。一方USJってエヴァンゲリオン出てきたり、キティちゃん走り回ってたり、言い方ちょっとあれだけど節操がないじゃないですか(笑)。ごちゃ混ぜ感というか、闇鍋感が個人的には合ってるというか。
一個を深く突き詰めるよりも、薄く浅いかもしれないけど、荒唐無稽にいろんな要素がサンプリングされて、レイヤーに乗せられてるっていう方が飽きないし僕個人の嗜好として好きなので、自分の趣味をとにかくいろいろ盛り込んでいます。
あと劇作するうえで、その時に自分が気になることを、例えば一昨年は僕NISAを始めようと思ったので(笑)、タンカーが沈没して流れ着いた無人島にどうぶつの森があって(笑)、動物たちが独自の紙幣で株をやってて、無人島NISAっていうのを学ぶというお話だったりとか。

──(笑)

去年は政治に興味を持って、みんなで投票に行こうっていう、宇宙を舞台にした政治に参加しようっていうお話を作ったりとか、その時々の自分のハマってる・興味があるものを自分の世界観にドスンと乗せるっていう方法論です。

──物語を表すのに舞台装置を作るのではなく、上半身裸の男たちが言葉で説明しながら、ヒップホップのパートでは心情面も出しながら物語を進めていくって作り方は、他の演劇やダンスとは明らかに変わっていますね。

そうですね。僕は毎回その物語の部分でいろんな仕事をするんすけど、最終的には30分ぐらい連続で踊って、全員が死んで生き返るっていうところがクライマックスなので、見てる人にはそこがインパクト残るから、20年ずっと一緒っていう(笑)。物語もちゃんと作ってるし、いろいろ手を変え品も変えてるけど、最後はダンスは違えど、システムはずっと一緒なんで、どんどん昔話を見てるような(笑)。

でも僕は大学生の頃から、なんていうか…マンネリを作りたくて。マンネリというか何て言うんすかね…。例えば唐十郎が水に飛び込んだら「よ!唐!」じゃないですか(笑)。吉本新喜劇のパチパチパンチを何万回も見ても拍手が出るみたいな。だからシステムとして最後全員死んだらもう終わりますよって、そこから生き返って、「待ってました!」って声がいつ出るかなと思ってるんですけど、なかなか出ないですね(笑)

──では今作「悲劇 EXPO 2025」についてお伺いします。

はい、たまたま偶然関西EXPOと被っちゃったんですけど(笑)向こうが被せてきたというか(笑)

──ポスターに書かれた「ごちゃごちゃ言わんと、どれが一番悲劇か決めたらええんや」ってキャッチコピー、プロレスファンはグッときてしまいます(笑)

前田日明大先生の(笑)

──1987年6月の両国国技館で生まれた名言ですよ(急に早口で語り出す)

僕らは愛のあるオマージュ集団なので、オマージュさせていただきました(笑)

──ストーリーを教えていただけますか?

富士の樹海に、人知れず悲劇EXPOが開催されていて。いろんな悲劇パビリオン、ハムレットパビリオンとかがあるという世界感の中、「家庭環境複雑なんだ」とか「なんでモテないんだ」とか、悲劇のヒロイン・ヒーローみたいな不幸顔してる高校生たちが、人が集まらないからと配られたタダ券で悲劇EXPOに遊びに行くと。近所の大学を8浪してる人の車に乗せられたりとか、何となく不幸っぽい人たちが集まってエキスポに行きます。そこにハムレット、マクベス、オセロー、リア王たちがいて、「おれが一番悲劇やで」っていうのをフリースタイルバトルとか、ダンスバトルとか、いろんなバトルで勝負を決めようとしている。
そうやって現代に生きている人たちが、昔に創作された悲劇を知ることで、この現代日本は悲劇なのか喜劇なのか、どうなんだろうというのを諮っていくという内容です。
あらすじを聞いたらいい話っぽく、社会派な気がしますけど、実際は全然乱暴です(笑)

──ゲストも参加されるんですね。

高知ではハニトラ梅木っていう怪談師をやってる芸人がいまして、僕の幼なじみなんですよ。彼が事故車…人を轢いたフォルクスワーゲンで全国を回ってまして。その一環で高知までヤバい車で来て、舞台に出て、やばい車に乗って帰るという(笑)

──いわゆる演劇公演とかダンス公演では出来ないゲストの入れ方ですよね(笑)

まさにウチだからこそですね。僕ら台本も無くて、口立てっていう、つかこうへいさんがやっていた、その場で口伝で作るっていうやり方をしてまして。元々僕らはダンス多めでやって、ちょっとお喋り入れるからって、その場で口伝で作ってたのが、今は芝居も長くなったからみんな苦労して覚えているんですけど。

──今でも書いてないんですか?

最終スタッフに見せる目的で集めて書くんですけど、ラップや凄い長台詞以外は、今でも口立てで作ってます。「ここはちょっとフリーで」みたいなところも作るんで、そこにゲストに入ってもらったり。
高知の場合は、ワークショップもやらしてもらってます。そのワークショップに参加して、本番にも出たいという意思があれば出てもらおうというシステムです。

──先日1回目のワークショップを終えたところですが、参加者の手応えはいかがでしたか?

非常に楽しそうにやってくれてたかなー。身体をちょっと動かしてから、さっきの口立てでシーンを作ろうっていうのをやって。よさこい踊れる子もいるっていうから、それも取り込んだシーンを作ってみようかみたいに、その場で設定決めて。口立てで作る劇なんて、みんな初めてだと思うんですけど、でもみんな頑張って。
参加者は中学生と高校生が主だったので、伝えるときに、小栗旬って例えたら「小栗旬って誰ですか?」ってジェネレーションギャップとかもありつつ(笑)、楽しく1シーンを作りました。よさこいをやってる人も多いから、身体もビビッドに反応してるなっていう感じで。中学生とかは台詞とかは拙いですけど、トライする根性というか、舞台根性というを感じました。

──それでは、はじめましてとなる高知のお客様に向けて、男肉の面白さや今作の見どころをお聞かせください。

今回の作品で言うと、シェイクスピアのハムレットとかマクベスとか書いてるんで、敷居が高そうというか、戯曲を知らんかったら楽しめないかなと思われるんですけど、「ラップで全部説明するから一切気になさらず!」です。僕はハリウッドのB級アクション映画が好きで、別に何も考えんと目の前に起こる現象を見てるだけで楽しいっていうのが好きなので、男肉も「なんかわからんことになってるけど、目の前で何か起きてて、それを浴びてるだけで楽しい」を目指してるので(笑)、心を無にして、見に来ていただけたら楽しめる作品にしています。

男肉の魅力は「決して上手ではないけど、エモーショナルに必死に叫ぶおじさんたち」「決して上手ではないけど、命の灯火を削るくらいに踊り狂う男達」特に感じてほしいのは、30分ほど必死に踊り続ける、僕らダンス連打って言ってるんですけど、ダンス連打をしてる様です。目の前で人がどんどん弱っていくところっていうのはやっぱなかなか見られないです(笑)。
今回20周年ということで、20年間でダンスレパートリーを探したら80曲ぐらいあったんですね。その振りをいろいろかき集めて、また再構築してダンスにまとめていったら、ダンスの楽曲のサビで踊る、一番振り回すところばっかり重なっていくから、1曲が異常にしんどくなって(笑)、20周年でいきなり弱音吐いてるんですけど、そのぐらい、いつもより多めに踊っておりますので(笑)、ほとばしる汗というか、燃え尽きていく肉体っていうのを、目に焼き付けてほしいなと思ってます。

──ありがとうございました!大長編 男肉 du Soleil「悲劇 EXPO 2025~ハムレットvsマクベスvsオセローvsリア王~」は8月29日(金)・30日(土)県民文化ホールにて上演します!沢山のご来場、お待ちしております!

公演概要(高知県立県民文化ホール)
男肉 du Soleil Webサイト