(寄稿)高知新聞「WMN21によせて」
「国際的な音楽交流を中心に高知を楽しくするプロジェクト」という長い名前の、でもその目的を端的に表している組織を立ち上げたのは2008年2月のことだった。きっかけとなったのは、前年にドイツ・フライブルク市のコーラスグループ「ジャズコァフライブルク」を招いた実行委員会。お花屋さんやイラストレーター、薬剤師さんや英会話の先生といった、さまざまな立場や職業の人が集まり、単なるコンサートの開催だけでなく、グループに高知を好きになってもらおうとあの手この手の交流プログラムを考え、音楽を通じた国際交流・友情交換を果たしたこの実行委員会が母体となり、生まれたのが本プロジェクトである。
プロジェクトの活動として、単独コンサートの開催やレクチャーコンサートの企画なども行っているが、活動の中心となっているのが「ワールドミュージックナイト」というプログラムである。知らない国の音楽を届けるだけでなく、その国の料理も楽しめる、静かにお行儀良く聴くのではなくて、もっと積極的に楽しめるような、お祭りのような賑やかなコンサートがあってもいいんじゃない?という思いつきで始めたこのプログラムは、2008年10月に南米フォルクローレの演奏を行う多国籍バンド「WAYNO」を招いて第1回目を行った。
「WAYNO」は高知ではおなじみのグループで、これまでも大きなホールでのコンサートも開催していたこともあり、本番前にチケットが売りきれるほどの盛況となった。しかし意外なことに、来場者のアンケートを見ると、今回「WAYNO」を初めて観た方も多くおり、イベントのコンセプトが評価されたのだと気付くことになった。
以降このプログラムは、コンサートを主催する上では何より大事な、演奏家の知名度や動員力よりも、まだ見ぬ音楽との出会いや、プロジェクトメンバーの「この演奏家を招きたい!」という情熱を優先することとなり、招いた国は、アメリカ、ブラジル、ペルー、アルゼンチン、ウルグアイといった中南米、ヨーロッパからはスイスやオランダ、さらにはセルビアやブリヤート共和国(ロシア連邦)といった、自分たちがこれまで知る機会の少なかった国からも演奏家を招いて公演を行った。
音楽のジャンルも多岐にわたり、プロジェクトの代表を務めるジャズ喫茶アルテックの青山さんの繋がりから招いた一線級のジャズミュージシャンや、プロジェクトメンバーのひとりで、自身もブルーグラス音楽の演奏者として、アメリカのフェスティバルにも参加する高知アメリカンミュージックラヴァーズの小田さんが招く、カントリー・ブルーグラスのミュージシャン、他にも北欧音楽やアンデス音楽と言った比較的ポピュラーなものから、モンゴルやチベットの民族音楽など、このプログラムがなければまず高知で生の演奏を聴く機会はなかったであろう音楽をお届けしてきた。
演奏家との繋がりも確実に生まれており、2009年に開催したセルビアのアコーディオン奏者、ミシュコ・プラヴィの公演の際は、高知の人や自然をたいへん気に入ってくれ、短い期間での再演を行った他、2011年の東日本大震災の折には「なにか自分にできることはないか?」とすぐに連絡をくれるなど、単純な演奏会以上の関係を作れていることも誇らしく思う(前述のジャズコァフライブルクは2013年に宮城県と福島県で震災チャリティー公演を行い、その企画やツアー帯同を本プロジェクトメンバーが行ったことも記しておく)。
これまで20回にわたりワールドミュージックナイトを開催してきて感じることは、来場者やプロジェクトメンバーが持つ「いっしょに楽しむ心」の素晴らしさだと思う。音楽そのものの素晴らしさをストレートに感じてもらい、ひとつの空間で得難い時間を共に過ごすことでまたそれぞれの暮らしの活力に繋げる。文化芸術が持つ力と言うと大げさに聞こえるが、少しでもこのプロジェクトの活動に対してそういった思いを感じていただければ幸いである。
次回ワールドミュージックナイトは、9月30日(金)に北欧エストニアの音楽賞を総ナメした、カーリーストリングスを迎えて開催する。フィドル、ギター、マンドリン、ベースの若者4人による編成で、アイリッシュやブルーグラスの懐かしい匂いを感じさせながらも非常に勢いのあるポップな楽曲、全員がボーカルを取る演奏スタイルに私自身が一発で大好きになったグループだ。どうぞ多くの方に彼らの音楽を楽しんでいただきたい。
国際的な音楽交流を中心に高知を楽しくするプロジェクト
事務局 吉田剛治