(寄稿)季刊高知第64号「僕らの劇場、蛸蔵」

高知市南金田の一文橋のたもと。川沿いに漆喰作りの藁倉庫が並び、歴史を感じる街並みの中、その倉庫の1棟をリノベーションし、2011年12月に移転オープンしたのが蛸蔵である。
蛸蔵は多目的ホールとしての機能を有し、集会や展示会をはじめ、コンサートや映画上映会、ユニークなところでは結婚式の披露宴会場としても使われているが、利用の一番メインとなっているのは演劇の上演会場だ。現在は高知市内外、さらに県外からの劇団を迎えるなど、蛸蔵の利用の大半を占め、多くの演劇人に使ってもらえる会場となった。

「なぜ蛸蔵という名前なんですか?」という質問をよく受けるが、そもそものスタートは今から12年前の2005年にさかのぼる。当時現代アートの拠点として、先鋭的な活動をしていたギャラリー「graffiti」に集っていたアーティストやデザイナー、文化関係者などで構成され、設立したART NPO TACOという団体がその母体だ(2016年に解散)。TOSA ARTS CONFERENCEを略してTACO。(当時は…)若くて情熱的なメンバーが集まり、アートイベントや出版など、多彩な活動を行う中で、北本町に移転した「graffiti」の隣にある倉庫を2007年よりフリースペースとして運営するようになった。それが蛸蔵のはじまりである。
当時の蛸蔵は劇場としての設備も何もない状態であった(だけじゃなく、建物の構造的にも大丈夫か!?と思う所が多々あった)が、それでもそこでコンサートや映画上映会などを行い、いわゆる公共ホールとは違うアプローチで、ある意味不便なところすら蛸蔵の良さにしてしまうような、自由で魅力的なアートスペースに育っていった。

一方、その頃の演劇事情は、老舗劇団が県立美術館ホールやくんてき会館を使う中、若い劇団はさらに小さな会場(ベルテンポやメフィストフェレス)を発表の場にしており、しっかり舞台を作り込めるような環境ではなかった。毎年春に開催する演劇祭も現在のように定まった会場ではなく、年ごとに高知港の倉庫や五台山竹林寺、はたまたかるぽーとの半屋外スペースを会場にするなど、まさに「自分たちの劇場」を模索していた時に蛸蔵と出会い、蛸蔵の自由さに魅力を感じた若手劇団が集い、上演するようになった。余談ではあるが、自由すぎる会場ゆえ、深夜まで熱心に舞台設営やリハーサルを行っていたとある劇団が、スモークマシンを効かせすぎて火災報知器が発報し、消防車が集まるなどのご迷惑をおかけしたことは今となっては笑い話に…なりませんね、ごめんなさい。

そんな蛸蔵に大きな転機が訪れる。2010年、障がい者の社会参画を目的に活動をするNPO団体のワークスみらい高知より、蛸蔵の移転リニューアルの打診があったことだ。ワークスみらい高知は日本財団の助成を受け、障がい者アートの美術館(藁工ミュージアム)、高知の食材を使った本格的なレストラン(土佐バル)、そして蛸蔵を同じ敷地内に設置する「アートゾーン藁工倉庫」の計画を立て、蛸蔵の移転にあたっては、耐震補強工事や本格的な舞台設備の導入などの提案があった。
それを受けて、これまで蛸蔵を運営していたART NPO TACOに加え、施設利用の中心であった高知演劇ネットワーク演会、高知県映画上映団体ネットワーク、高知市内で音楽イベントの企画を手がけるterzotempoのメンバーが集まり、NPO蛸蔵が組織され、ワークスみらい高知からの運営委託を受ける形で2011年12月に新蛸蔵が移転オープンすることとなった。

提案を受けた時は「こんな劇場にしたい!」と夢のある話をしていた蛸蔵メンバーだが、実際に工事が始まり、新蛸蔵のオープンが近づくと、予算削減や工事費の増額など、シビアな課題と直面することになった。会場設備をどこまで妥協するか、ギリギリのラインをみんなで考え、集まっては結論の出ない議論を延々続けることも多くあった。
なんとかオープンにこぎ着けたあとも問題は山積で、ワークスみらい高知からの事業委託とはいえ、日々の受付や管理業務はNPO蛸蔵が役割を担うため、かなりのボリュームの事務作業をそれぞれに仕事を持ったメンバーが負担しており(現在も常駐スタッフが不在のため、利用者にもご迷惑をおかけしている点、お詫びします)、また使用料収入と経費負担のバランスも難しく、「できる限り手軽に使える料金設定にしたい」「けど利用が少なかったら赤字になる」「利用料金を安くすることで、多くの団体に使ってもらえるんじゃないだろうか?」と、料金や受付方法などは試行錯誤を繰り返し、不足額が出たときは構成団体や個人が負担することもあった。

移転当初は「正直何年続けられるのか…経営が立ち行かなくなったときはどうするのか?」とメンバー一同不安を抱えていたが、粘り強い活動を続けることで、少しずつ蛸蔵の名前が浸透していき、最近は経営状況もやっと改善しつつある。
何よりも胸を張りたいのは、これまで単発の助成は受けているものの、あくまで自分たちの手で運営している施設であるということだ。東京や大阪と違い、高知のような地方で、しかも文化行政の力を借りずに小劇場をなんとか運営できているのは、高知の演劇シーンが劇団数や公演数の増加に加え、さまざまな企画や交流を生みだし、新しい段階に向かっていることが最大の要因だと言えるだろう。
「僕らの劇場」がさらに多くの人を巻き込んで「みんなの劇場」になるための道はまだまだ遠いが、歩みを止めずに進んでいきたいと思う。

と、いい話風で終わるかと思いきや、急にコマーシャル(こっちが本題とも言います)。
蛸蔵は、各種公演や発表会の利用は1時間3,000円から、会議や練習、無料の催しは1時間2,000円から利用できます。演劇はもちろん、いろんな利用の相談にも応じますので、お気軽に問い合わせくださいませ!