劇団シアターホリック「夜明け前≒Lost Generation」(2022.06.26)

シアホリは昨年8月、力のある俳優さんを迎えて上演された「幸福論」以来の観劇。
作品の形態は、2017年「孤独、あるいはマルキドサドに学ぶ幸せな人生の過ごし方」以来の松島さんの一人芝居となります。

作品は「幸福論」の時に感じた、劇作家としての松島さんの新境地を進む、日常のリアリティを丁寧に描く創り方。
ダメな中年男性を演じたら軽く四国イチは名乗れるんじゃないかと思う松島さんが、うだつのあがらない中年サラリーマンとなって、仕事の受難に遭いながらも、心寄せる地下アイドルに少しずつ傾倒していくさまを描くパートと、その地下アイドルがどうやって誕生したかを描くパートとなっています。

前回の一人芝居「孤独〜」は、一人の青年の転落人生を映画のようにダイナミックに演じていたのと比較して、今回は日常のリアルの中のちょっとした機微を表現しているようです。

が、個人的にはこのリアルが、どうも響かなかった。

「幸福論」の時に響きまくったリアリティは、現代の高知の街とそこに暮らす人々の空気感だったのですが、今回の舞台は全国何処にでもある、いや、地下アイドルの劇場があるくらいだから都会に限られるのか。なんというかリアリティを感じない無個性なイメージ。
そこに生きるサラリーマンがひとりのアイドルに惹かれていくさまは、少し過剰な演出にもかかわらず確かなリアリティを感じたけど、サラリーマンのもう一面である生活や仕事の場面、例えば総務から営業に転属されたとしても、そんな感じでお仕事するのかな?なんて疑問に思ったり。
物語後半の、女の子が成り行きでオーディションを受けて、レッスン料を払ってステージデビューし、深夜テレビにも出るという流れも、いわゆるタレント養成所のリアルとは違うように感じました。
それならサラリーマンも地下アイドルも「孤独〜」のようにダイナミックに描いた方が…と、リアル・ファンタジーのどっちつかずな印象を受けました。

サラリーマンと地下アイドル、ふたりが出会った場面、素敵でした。
誰かの人生が別の誰かの人生に、ちょっとずつ影響を与え合って、また別の誰かと関わりを持って、さらに影響を与え合って、そうやって世の中はできてるんだなーってしみじみ思った次第です。
あとふたり以外の登場人物ですが、松島さんが演じると、どの登場人物も憎めない、愛しい人々で、総じて優しい物語でした。

この作品はこれから全国を回るそうです。
さらにブラッシュアップされて、全国にシアホリの名を刻んでくださいませ。