「明日のハナコ」イワントモリインタビュー

東京から愛媛に移住して活躍する岩渕敏司さんと、現在も東京で活動する森田祐吏さんの俳優2人による演劇ユニット「イワントモリ」。旗揚げ公演「山の声」が大きな評判を集め、この度第2回公演「明日のハナコ」が決定しました。ユニット旗揚げの振り返りから本公演にかける意気込みをおふたりに伺いました。

──旗揚げ公演に続いてのインタビューありがとうございます!前回お話を伺って印象的だったのが、岩渕さんが「(自身のプロデュース公演だから)自分の好きな作品を選んで上演できるのが嬉しい」と言われてて。僕が「その分、いろんな責任も出てきますよ」と話したんですが、実際にやってみて、その辺はどうでしたか?

岩渕 1回目をやってみて、これも性格が出ると思うんですけど、楽観的なところがあるんで(笑)、意外と手応えを感じたのが正直なところです。もちろん上手くいかなかったところもあったんですが、そこは僕のリサーチ不足だったりもあるし、学びにもなったなって思います。

森田 お金のこととか手間のことを言えば、割に合わない(笑)、ってのは冗談で、でもそんなことは最初から分かっているから気にはならないすね。

──「山の声」は高知ではなかなか上演されないタイプの作品で、お客さんからも高い評価をいただきました。そして今回の「明日のハナコ」に繋がるのですが、2回目の公演を決めたのはどういう経緯だったんでしょうか?

岩渕 1回目やってる時から2回目もやろうって気でいて。

森田 なんとなく話していたよね。

岩渕 ストレスが溜まっていた時、森田さんに突っかかった時も「お前、2回目やるのかよ!」なんてことは言ったこともあるんで(笑)。その時も「やる」って言ってくれてたし、僕も「やりたくない」って言ってほしくなかったから言ったわけだし(笑)、本人を前にして言うのはアレですが、助かりました。
作品は特に高知は、僕らを知らないお客さんからあれだけの拍手をいただけたのもそうですし、他の会場と比べてアンケートの質も違ったんです。それはとても、芸術家冥利につきるというか、得難い体験でした。

──ありがとうございます。そんな体験から今作に向かうのですが、基本は2人で決めて、2人芝居から探すという感じですか?

森田 俺は「2人だから2人芝居かな」って思ってました。

岩渕 僕もです。まず団体名が「イワントモリ」なので、他の人を入れちゃうのはまだ早いんじゃないかなって。でも、いつかはもうちょっと増やしてみたいし。高知でも繋がりが増えてきた中で、こちらの人ともやってみたい気持ちもあります。そうしないと移住してきた意味が無いというか。

──2人芝居っていろんなスタイルの作品がある中で、「明日のハナコ」を選んだ理由を教えてください。

森田 これは「僕がやりたい」って言い出して。福井県の高校演劇の作品なんですけど、福井県では高校の演劇大会があると、地元のケーブルテレビで必ず作品を放送してたのが、この作品だけが放送されなかった事件があって。その辺から興味を持ってて、戯曲が公開されていたので読んでみたら、面白くって。これを岩渕さんとやれたら面白いだろうなっていうのがきっかけです。

──「山の声」の時も先に森田さんがやりたいって言ってましたね。作品選定は森田さん中心?

森田 って言うわけじゃないんですけど(笑)、最初は「山の声」をやろうって話から「イワントモリ」を作る流れになって。で、2回目も岩渕さんが山の話を持ってきて「ちょっと待ってください」って(笑)

岩渕 「K2」って作品があって、メチャクチャ面白いんです。これはもう、山に感化された私にとってはこれだって(笑)

──じゃあ、イワントモリは山の芝居をするユニットと(笑)

岩渕 そういう劇団があってもいいんじゃないかって(笑)

森田 限定されすぎでしょ!(爆笑)

岩渕 東京の森田の家に行った時にこの話をしたんですけど「また山に登るんすか?」って(爆笑)

──いやけど、そこから高校演劇って振り幅が凄いですよ(笑)

森田 しかも女子高生の話ですから(笑)

──物語について可能な範囲で聞かせてもらえますか?

岩渕 学校の演劇部が舞台で、何やら1人が部室で作業をして、そこにもう1人が通りかかって、きっかけは些細なことなんですけど、それぞれ持ってる背景があって、その背景からとんでもない方向に話が飛んでいくんです。いじめの話とか、戦争の話に触れたり、原発、大地震と…。

──僕らが生きていて、目の当たりにはしないけど、ずっと持っている不安だったりを高校生が演じて、それを一部の人かも知れないけど、大人の中で「偏った考えだ」みたいなことを言う人がいて、放送に至らなかったという事件があったと。
そこで演劇人を中心に「表現の自由は守られるべきだ」という運動が起こって、逆にこの作品が有名になったという。

森田 そうですね。「明日のハナコ」は2021年の作品で、当時から興味を持っていたんですけど、それと別に2022年に東京でやってた高校演劇をテレビで見たんです。そしたらそれがメチャクチャ面白くて。さらに高校演劇を見直したというか。

岩渕 偏見かもしれないけど、僕らの時代の高校演劇ってつまんないことをやってたって言うか「そういうことをやってるから演劇部に誰も入らないんだよ」みたいなことを思ってて。ホントは演劇に興味があるのに入らなくて、「身長が伸びるかな?」ってバレーボール部に入ってました(笑)

森田 その頃から演劇に興味があったんですか?

岩渕 実はあった。でも、当時やってなくて良かったと思ってる。

──僕も最近審査員として高校演劇を見たんですが、教育的側面だったり、指導者によって大きく違うところはありますね。

岩渕 「明日のハナコ」は玉村先生という方が書いているんですけど、ラッキーな学校だったんだろうなって思います。それと、吉田さんが言った教育という言葉もそうだと思うんですが、演劇は道徳的なものとして、人格形成とか、そう言ったものに使われるのが好きじゃないんです。だからこの「明日のハナコ」はそういった要素は下敷きにあるのかもしれないけど、限りなく表現がオシャレというかそんな気がしていて。気に入って稽古しています。

──お題目のように「原発は良くないよ」とか「差別はいけないよ」とか、そういったことはテキストには書かれてないと。

岩渕 無いですね。

森田 そこは自分たちで考えさせるのかなってところがあると思います。

──ある人にとっての正義が、別の立場の人にとっては違うように、いろんな意見や考えを知る機会が演劇にあるかもしれないですね。

岩渕 作品の中に、今言われたような場面もあるんです。自分は良かれと思ってやってきたんだけど、ちょっと躊躇っている自分もいるみたいな。だから人間って100%、例えば「100%好き」とかって無いだろうなって思ったりしますね。疑惑の目を持っているというか(笑)

──何かを信じきることほど怖いことは無いかもしれない。

岩渕 「何かを信じる」って一瞬あるかもしれないけど、やっぱり長い目で人生を考えたとき、「難しいな」って思います。

──ありがとうございます。ではクリエイションの体勢について教えてください。今回の演出に須貝さんを起用した経緯を教えてもらえますか?

森田 須貝さんとはもともと僕が東京で一緒にやったことがあって。その時に誠実な演出をやってくれたんで、いつかまたできたらなと思ってて。今回ちょうどタイミングも良く、お願いしました。

──これが東京のクリエイションだったら、スケジュールが空いてたらすぐにってなるんでしょうけど、来ていただいて滞在してとなるのが地方の制作の大変なところでもありますね。

岩渕・森田 (実感こもった感じで)そうですねー。

森田 前回は愛媛在住の伊豆野さんに演出をお願いして稽古に入ったんですが、今回はえいちゃん(須貝さん)は後から合流するんで、先に僕ら2人で作ってるって感じです。

──舞台のプランができてて、先に俳優が演技プランを作って、最終的に調整していくと。

岩渕 あとは須貝さん色にしてもらって、僕達も気付くことも沢山あると思うので、そこを楽しみにしています。

──須貝さんの演出を一言で表すとしたら?

岩渕 クレバー。

森田 クレバー、そうっすね。

──今回の作品が一杯飾り(ひとつの場所)じゃない、どんどん展開していく中での見せ方も注目ですね。

岩渕 余談だけど、2.5次元の演出の人とかが「明日のハナコ」やったら面白いかも(笑)。映像なんかで場所とか時空をあっという間に越えちゃって。まぁ、そういう人には芝居の心は無いと思いますけど(笑)。須貝さんはクレバーかつ、言いたいことも言ってくれる演出家です。

──あと前回も山本太郎さんが音楽で入られていましたが、ストレスがかかる場面の音とか、役の心情に寄り添うような音作りが凄く印象に残りました。山本さんは愛媛の方ですか?

岩渕 そうです。伊予のベートーベンって呼ばれてます(笑)

──浪速のモーツァルトみたいな(笑)

岩渕 そうそう(笑)。でもホントに多才な方で。ビジネスとしていろんな仕事をしてるけど、自分の感覚ではイワントモリの時は素の状態で作ってくれてる感じがして、楽しいです。

──いまインタビューしてるのが9月3日で、初日が9月27日。森田さんが合流しての稽古期間約3週間でいろんなことが決まっていく感じでしょうか?

岩渕 ZOOMミーティングなどを重ねているので、そこはあんまり心配してないですね。

──顔を合わせての稽古は短いけど、そこに至るまでの準備は入念にされていると。

岩渕 それもありますが、我々2人が圧倒的に皆さんのセンスを信用しているので。いつも納得させてくれるんで。照明も音響も。

──本当に優秀なクリエイションスタッフが集結していますね。

岩渕・森田 ありがたいです。

──では高知のお客さんにメッセージをいただけますでしょうか?

岩渕 さっきも言いましたけど、高知で「山の声」をやって、味を占めたというか(笑)、でも味を占めてきたのは僕達であって、また見てくれるかどうかは高知のお客さま次第ですから、その人達を裏切らないように、しっかり作っていかないといけないって思ってます。

森田 「山の声」の時、「臨場感がある」というアンケートも多くて。それは良かったんですけど、今回の「明日のハナコ」は前回とホントに違う作品だから、「山の声」とはまた違うゾクゾク感を味わえると思います。
「山の声」は絵が浮かぶというか、丁寧な本なんですけど、「明日のハナコ」はもっと…

岩渕 ぶっ飛んでんだよね。

森田 そうそうそう。劇中で過去に行ったり未来に行ったり、そういう面白さもあるし、そこに翻弄される僕ら役者2人というところも見ていただければ(笑)

──俳優としても新しいチャレンジになりそうな。

岩渕 そうですね。俺はあんまり関わったことのないジャンルのお芝居ですね。

──「山の声」の話ばかりしちゃダメなんですけど、「山の声」が良かっただけに、みんながそれをイメージして来たら度肝を抜かれちゃうかもですね。

森田 だから「どう見てくれるんだろう?」っていう楽しみがあります。

岩渕 「山の声」の時に、2人の絵を描いてくれたお客さんがいて。その絵をいただいて松山公演のパンフに使わせてもらったんです。そういうのも凄く嬉しかったんで、高知にはしばらくお世話になりたいなって思ってます(笑)

──ありがとうございました!イワントモリ第2回公演「明日のハナコ」高知公演は10月5日(土)6日(日)蛸蔵にて上演します。たくさんのご来場、お待ちしております!
http://iwantomori.com